≪オーケストラの楽器≫ フルート2 西山 誠



 昭和の詩人に深尾須磨子という人がいます。彼女は詩人であると同時に、昭和初期の女流フルーティストでもあります。パリ留学中に、彼女はパリ・コンセールバトワールの主任教授で、パリ管弦楽団の首席フルーティストのマルセル・モイーズに師事し研鑽を積みました。その深尾須磨子が昭和5年に発表した詩集「雌鶏の視野」に、自らとフルートのことを詩った『笛吹き女(ふえふきめ)』と題した詩があります。この詩を読んで、深尾須磨子にとってフルートがどんな楽器だったのか想像してみて下されば、この上ない楽器紹介になると思っていますが、如何でしょうか。

笛吹き女

笛を吹き候
笛吹きて悔ゆるのに候
笛吹きて析るのに候
笛吹きて生くるのに候

尺ばかりなる篠竹の
あな手作りのおぼつかな
唯かりそめのすさびにも
笛吹く子にて候ひしが

笛を吹き候
宙はしろがね
早瀬のまゝに冴ゆる初鮎
音はむらさきの秘めごとに候

笛を吹き候
笛は真
宙は神
まづをろがまではもの申されぬ

笛吹けば
子犬立ち止まり候ひぬ
雀をどり候ひぬ
壁耳を傾け候ひぬ

笛を吹さ候ひしが
もの売り人の声の聞えしかば
はたとばかりに吹き止め候
やがてまた吹き出づるのに候が

ひゆひゆらひゆひゆらと
吹くは孤独の笛に候
あはれいつよりか
ぴえろは涙をわすれけむ

寂しとや
寂しとや
むなしとや
されどなほ笛吹くことの候に

哭きたまえ
只哭たまえ
哭きつかれては笛吹きたまえ
望みは一管の笛にのみやどり候

人のおもひを吹きすましては
いよよおどけし世のふりの
名もうつそみもなべてものかは
笛のはしため笛を吹き候

笛吹かばや
春にて候ものを
笛吹きて雲の懸橋を渡らばや
笛吹きて天の戸をおどろかさばや

りらのかをりを音にこめて
今宵まゐるは異國ぶりの牧歌調(まどりがる)に候
酔ひたまえ
異國(とつくに)ぶりの月もをかしきに

(2000.6.18 第27回サマーコンサートのプログラムから)


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