≪オーケストラの楽器≫ トランぺット 河野邦明
2 改良と進化
音楽的なトランペットは、さまざまな変遷を繰り返しながら14世紀未にでてきた長管(現在のものに比して管の長さが倍近くある)トランペットによって始まります。それらはS宇状とかU字状とかホルン状に巻かれた形状をしており、17世紀始め頃から奏法上の変革とともに旋律をも奏するようになりました。
バッハ・ヘンデルの時代には二調と変ホ調の管が主流を占め、トランペットの黄金期を創りあげました。奏者は高度の訓練によって高次倍音(第16から第18倍音まで)を自由に操ることができました(だからブランデンブルグなんぞが吹けたのです)。
しかしハイドン・モーツァルトの時代にはこういった名手はいなくなり、そのためあらゆる調の楽器(替管もふくめて)が作られましたが、管調(調性)によって昔質が根本的に変わることから19世紀初め頃までには次第に淘汰され、結局一番良くなるへ調のものを主体にそれに各管の替管をつけるものが一般的になりました。
本日の演目のひとつハイドンの『トランペット協奏曲』の作曲動機ともなったアントン・ヴェンディンガーの改良はちょうどこの時期(1790年代)のものです。彼はトランペットの管体に木管楽器の様なキーを5つ付けました。これにより低次倍音域での半音階演奏が可能となりましたが、管体そのものに穴を開けしかもそれを柔らかいタンポで塞いだために、この楽器が本来持っている輝かしい音色を損なう結果となり、一般化するには至りませんでした。トランペットの真の改良は、19世紀中期のヴァルブ・システムの発明によってもたらされます。初めのうちは、それまで普通に便用されていた長管に装置されたため、高次倍音列の昔間の狭さによって指使いが非常に複雑になりました。この適応性のなさによって、管弦楽団での地位をコルネット(短管で音色的には劣るものの機動性に優れる)に奪われたりもしましたが、19世紀未に短管のヴァルブ付きトランベットが出現するに及んで、再びその地位を回復し、現在に至っています。
3 現在のトランペット
現在のトランベットは、短管にピストン・ヴァルブあるいはロータリー・ヴァルブを装備したもので、変口調のものが最も一般的です。特に、吹奏楽・ジャズではもっぱらこの調性の楽器が使われますが、管弦楽ではこの他に曲によってハ調・ピッコロ等を使い分けています。(本日の演奏曲目のうち『新世界より』ではハ調の楽器を使用しています)
トランペットは、その構造が極めて単純であり(したがって値段も安い)、音色も華麗なところから多くの人に愛好されていますが、奏者の気質・特徴についてはまだ解明されていない点が多くあるようです。これについて論じるには紙面が足りませんが(敵を作りたくないという気持ちもある)、機会があれば是非とも挑戦してみたいと思っています。乞ご期待!
(1999.6.20 第26回サマーコンサートプログラムから)