≪オーケストラの楽器≫ ヴィオラ 山下正純
1 ヴィオラの大きさについて
ヴィオラに張ってある一番音の低い弦はドの音。ヴァイオリンではソの音で、完全5度の開きがあります。従って計算上での本来あるべきヴィオラの大きさは、ヴァイオリンの1.5倍ということになりますが、そうなると肩に乗せるには大き過ぎ、チェロのように足に狭むには小さ過ぎるサイズとなります。そして実際のところ、ヴァイオリンより1割程度しか大きくない、見た目にも、ほとんどヴァイオリンそっくりな楽器がヴィオラです。
ところが、この音域のわりに小さいということが、嬉しいかなヴィオラ独特の音色を生み出すこととなったのですから不思議です。ここで、こういう仮定はあり得ないでしょうか?もしも、人が今より1.5倍ほど大きかったとしたらどうでしょうか。その場合、むしろ、今のヴァイオリンを1.5倍したサイズこそが肩に乗せて弾けるサイズということになります。従って今よりずっと大きいヴィオラが存在して、ヴァイオリンのようなきらびやかな昔を発していたに違いありません。そして逆に、「指で押さえて音をとるには小さすぎる」という理由で、音域の割に少し大きく作られたヴァイオリンの方が独特な金切り声?を出すはめになっていたかも知れません。
2 ヴィオラの昔域について
ヴィオラの受け持つ音域は、人の声の音域と近いためか、声が骨を伝わって響くがごとく、ヴィオラの音もまた骨を伝わって我が声のごとく感じられるときがあります。そのせいか、その音に妙に親しみを覚えるとともに、なにかしら「温かみ」と、そして同時に、「もの悲しさ」を感じてしまいます。
このように音色を言葉で表現したところで仕方ないのですが、その独特の音色には、人間味を感じさせる何かがあるように思われます。
3 ヴィオラを愛した人達
そのようなヴィオラをこよなく愛した多くの作曲家について〜モーツァルトはヴァイオリンとヴィオラのための二重奏や協奏交響曲を書き、ブラームスも交響曲や序曲のなかでヴィオラに主旋律を弾く機会を多く与えています。また、ベルリオーズやリヒャルトシュトラウスは「イタリアのハロルド」や「ドンキホーテのお供のサンチョパンサ」としてヴィオラを使い、その人物像を表現しています。その他に、ヒンデミットやバルトーク、ショスタコーヴィチなど多くの作曲家たちがヴィオラのために名曲を数多く残しました。
4 働き者の代名詞?「ヴィオラ」
ヴィオラはヴァイオリンやチェロに比べてその音高や昔色が他の楽器によって覆われやすいせいか、主旋律を弾く機会はあまり多くはなく、オーケストラの中では、どちらかというと脇役であることが多いようです。しかし、その中間的な音域のせいか、弦楽器のなかでは、一番働き者の楽器でもあります。旋律を弾くこともあれば、ヴァイオリンやチェロとユニゾンやオクターブで重複して支えたり、内声部を2音3音と重音で刻んだりと、様々な役割を受け持っていつも忙しくしています。そして今回の演奏会においても、やはり休みなくがんばっておりますので、ヴィオラが何をしているのか「ヴィオラウォッチング」をされてみるのはいかがでしょうか。それでは今宵もどうぞ演奏会をごゆっくりお楽しみ下さいませ。
(1998.12.13 第26回定期演奏会プログラムから)