千葉大学OBOGオーケストラの公式Twitterはじめました。
フォロー お願いします!
演奏曲目紹介

ここでは、2008年9月に開催した 千葉大学OBOGオーケストラ第2回定期演奏会で演奏した3曲と、曲に関連する歴史的背景などを解説&紹介しています。


L.v.ベートーヴェン
交響曲第2番

F.シューベルト
交響曲第7番「未完成」
W.A.モーツァルト
歌劇「魔笛」序曲
フリーメイソンについて

『交響曲第2番 ニ長調 Op36』 L.v.ベートーヴェン

だらら

 ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲、交響曲第2番が完成されたのは1802年。これは、あの「ハイリゲンシュタットの遺書」が書かれた年でもある。だが、この第2番は、暗く打ち沈んでいた時期に書かれたものとは思えないほど、明るく、希望に満ち溢れた作品である。
 この第2番は、ベートーヴェンの交響曲全9曲のうち、第3番「英雄」、第5番「運命」、第6番「田園」といった副題で呼ばれるものや、第9番「合唱付き」などと比べたら、演奏頻度や知名度の点では及ばないかもしれない。だが随所に、後の第9番を思わせるパッセージがいくつも登場するのは、興味深い事実である。

【第1楽章】Adagio molto ニ長調3/4拍子 ― Allegro con brio ニ長調 4/4拍子 ソナタ形式
序奏から始まる。この部分にはニ短調の主和音がアルペッジョで下降するパッセージが見られ、第9番を予感させる。主部に入ると、対照的な二つの主題が奏される。そして展開部、長いコーダと続く。このコーダは第二展開部の役割も果たす。

【第2楽章】Larghetto イ長調3/8拍子 ソナタ形式
かなり長い楽章である。ベートーヴェンの作品中、この旋律の美しさは特に有名で、後に歌詞が付けられて歌曲にもなった。

【第3楽章】スケルツォ Allegro ニ長調3/4拍子 複合三部形式
短い楽章である。この交響曲において、初めてスケルツォの名称が楽章に用いられた。トリオの旋律が、第9番のスケルツォのトリオに極めて似ている。

【第4楽章】Allegro molto ニ長調2/2拍子ロンド・ソナタ形式
出だしの動機が何ともユニークで、まるで何かを呼びかけているかのようである。その「呼びかけ」が楽章全体を支配している。田園的な経過句の後、木管に第二主題が現れる。コーダは長く、全体の3分の1を占める堂々たるものである。

 「ハイリゲンシュタットの遺書」まで書いた作曲者が、結局のところどのような精神状態をもってこの明るい交響曲を書き上げたのか、今となっては正確に知るすべはない。しかしどんな形であれ、壮年期に入ろうとしていたベートーヴェンの、作曲家としての底力のようなものが根底にあったことは間違いないのではないだろうか。この第2番と真剣に向き合う機会に恵まれた今回、我々は是非それを探り当てていきたいと考えている。

▲このページのトップへ

『交響曲第7番「未完成」 ロ短調 D759』 F.シューベルト

胡椒

 交響曲第7番ロ単調D759「未完成」はオーストリアの作曲家フランツ・シューベルトが1822年に作曲した未完の交響曲であり、最も名の知られた交響曲のうちの一つである。
交響曲は通常4つの楽章から構成されるが、シューベルトは第2楽章まで完成させ3楽章のスケッチに着手しながら、そこで作曲を中止してしまった。なぜ作曲を中止したのかという謎についての解釈はさまざまであり、「シューベルトは第2楽章までのままでも十分に芸術的であると判断し、それ以上のつけたしは蛇足に過ぎないと考えた」という説や、失恋のせいであるという説などがある。
真偽のほどは明らかではないが、後者の説を元にした映画が制作され、「わが恋の成らざるが如く、この曲もまた未完成なり」というフレーズが一躍有名となった。いかにも大衆的な話であるが、これもまた「未完成」という曲が人間的性格も持ち合わせ、単なる「完成していない曲」では片付けられない魅力を持っていることの証明であるといえよう。

【第1楽章】Allegro moderato ロ短調
冒頭よりチェロとコントラバスによるH−Cis−Dの印象的な動機が現れ、この楽章を支配していく。焦燥感を持った弦楽器が和音の移り変わりを刻み続ける中、木管楽器が哀愁ある第一主題を歌う。次の主題の到来を告げるホルンの響きを合図にコントラバスのピチカートとヴィオラのシンコペーションに乗せて、チェロによるト長調の第二主題が歌われる。徐々に楽器と音域を拡大し、いざ飛翔せんとするところで息の詰まるような全休止。第二主題のあこがれを断ち切るような、短調による咆哮。そして曲は、長調から短調へと歌われる再現部を経てクライマックスへと向かう。楽器を増し、最後は悲劇にあがらうかのようにフォルテッシモで訴えるが、冒頭の動機である三音に支配され結局は愁嘆に終わることとなる。この曲において夢は成しえなかったのだ。

【第2楽章】Andante con moto ホ長調
下降する音階ながらも何かを期待させるピチカートに乗せて、ホルンによる三小節の序章が奏でられる。たった三小節だがこれから歌われる2楽章の広さを予感させ、穏やかな第一主題が姿を現す。調性を変え繰り返されるメロディ。そして弦楽器最弱音に導かれ、嬰ハ短調に始まる弦楽器のシンコペーション。張り詰めた空気の中、寂寥感がありながらもどこか夢見るような第二主題をクラリネットが歌う。フォルテで提示部のクライマックスをむかえると、第二主題の変化形、第一主題を内包する中間部が奏される。再現部は序奏を含め曲の冒頭と同様に進行するが、とうに過去である提示部の存在により最初とはまた違った印象を受ける。また、第二主題へと移行する調性の違いに作曲者の比類ない才を感じさせる。最後は第一主題で終結の予感を漂わせながら、序奏そのもので穏やかに幕を下ろす。この曲が未完成であるがゆえに、単なる希望ではなく不安定さも併せ持ったラストである。

▲このページのトップへ

『歌劇「魔笛」序曲 K620』 W.A.モーツァルト

T.

 18世紀、モーツァルトは晩年の最高傑作として歌劇「魔笛」を残しました。それまでの歌劇で使われていた要素を色々と取り入れて総合的な歌劇に仕上げ、後のベートーヴェンらにも大きく影響した作品です。
 その導入となる序曲は、3種の和音を響かせる荘重なファンファーレで始まり、すぐに楽しげな主部へ移ります。このフーガのような旋律は、fpをうまく効かせて驚かせるような強拍をつくっています。途中、一旦終わるかと思わせた後、再び冒頭のファンファーレが鳴り出します。さらに、前半と同じような旋律の掛けあいを続けますが、今度は何か悪い誘惑のような暗い影も所々に見えてきます。そして最後は盛り上がりを見せ、すっきりと終わります。

 全体的につい踊り出したくなる軽快な曲です。新しい時代を切り開こう、そんなエネルギーが秘められており、私たちがこの演奏会を始めるのにふさわしい序曲であると言えます。

▲このページのトップへ

フリーメイソンについて 〜「魔笛」と18世紀ウィーン・啓蒙主義〜

Eudiska Ostia

 『魔笛』では3回鳴らされる和音に代表されるように、音楽、ストーリーの至るところにフリーメイソンのモチーフが見て取れる。当時ウィーンのみならず、ヨーロッパ中を席巻していたフリーメイソンとはどのような組織だったのか?ここではフリーメイソンの成立から、ウィーンにフリーメイソンの思想が流れ込むまでの過程と、『魔笛』に表わされたフリーメイソン像を見てみることにする。

■フリーメイソン起源諸説

 フリーメイソンは一般的にはその名前が示す通り、中世の石工組合が起源の団体であるとされている。しかし実際には、薔薇十字団起源説からアダム起源説まで多岐に渡る説が唱えられている。このさまざまな説を把握しておくことは、フリーメイソンという団体の特徴を知る上でも非常に有用であると考えられるので、その一部を紹介する。

【アダム=イブ起源説】
 『フリーメイソン憲章』においても記述がある。重要なことは聖書と結び付けられている=フリーメイソンが宗教的な一面を持っているということである。

【古代密儀宗教起源説】
 オシリス=イシス密儀、デュオニソス密儀など。ザラトゥストラの教団もオシリス=イシス崇拝である。またアダム=イブ起源説にも通じることだが、宗教的起源を持つということは、そこに生と死(または死と復活)という教義が含まれていると推測できる。

【中世石工職人組合起源説】
 いちばん有名であり、また多くの研究者から支持されている説である。「親方」「徒弟」などの名称や独特の符丁などが、その後のフリーメイソンの下敷きになったとされる。

【薔薇十字団起源説】
 17世紀初頭にヨーロッパを席巻した薔薇十字団が起源であるとする説。薔薇十字団とは錬金術、カバラなどを中心とした神秘主義的秘密結社とされる。薔薇十字団そのもののルーツなどが不明ながら、フリーメイソンに神秘性を求める人々に支持された。

その他にもピュタゴラス起源、聖堂騎士団起源、クラブ起源などがあるが、総じてこれらはフリーメイソンを「密儀宗教的であり、建築に関する合図などを用い、社交的サークルの性格を有する団体」と位置付けるのに役立っている。これらは次に示す近代的フリーメイソンの発足やその儀式にほとんどそのまま受け継がれている。

・近代的フリーメイソン発足と発展

 近代的フリーメイソンは1717年6月24日にイギリスのコヴェント・ガーデンの居酒屋でグランドロッジが発足したことにより始まる。当初はクラブ的な要素が強かったが、ほどなくして『フリーメイソン憲章』が作成され、そこに歴史、責務、通則が盛り込まれたことにより、社会的な組織として発展していく。特に貴族、王族を会員としていくことにより広まっていった。

 上記の諸起源説のうち聖書に関係づけられているもの(アダム=イブ起源説)は、『フリーメイソン憲章』からきていると考えられる。すなわち『憲章』では、アダムが神より幾何学を授けられており、代々子孫に伝えられてきた、とされている。

・フランスのフリーメイソンと神秘主義

 さて当時の先進国であったイギリスでのフリーメイソン発足の動きは、アングロマニア(イギリス崇拝)が最高潮に達していたフランスにも流れ込んでくる。1725年にはパリに最初のロッジが設立され、フランス革命直前にはロッジ数600、会員は2万人から3万人にまで膨れ上がっていた。なおフランス革命は「自由・平等・博愛」のスローガンなどを根拠の1つとして、フリーメイソンが起こしたものだと言われる。しかしながら、当時のグランドマスター(グランドロッジの頭領)がギロチンにかけられたという事実もあり、革命にフリーメイソンがどこまで関与していたかについては明確になっていない。

 この大陸で拡大されたフリーメイソンに、本家イギリスにはなかった新しい要素が加わる。それは神秘主義である。ラムゼイという人物が1737年にパリのグランドロッジでおこなった有名な講演の中で、フリーメイソンの起源は十字軍派遣の時に王族や貴族によって設立された聖堂騎士団がその起源であるとの見解を示した。これは歴史的根拠に基づく主張ではなかったが、これで宗教的起源説、石工組合説、神秘主義的起源説が出揃うことになる。

しかしながら、『魔笛』で描かれるフリーメイソンにはもうひとつ重要な要素が含まれている。それはフリーメイソンと同じくイギリスを誕生の地とする啓蒙主義である。

■ドイツのフリーメイソンと啓蒙主義

 ジョン・ロックのいたイギリスから広まり、フランスではモンテスキューが入会したフリーメイソンは、ドイツに広まる頃には啓蒙主義とほとんど同一視されていた。1738年に啓蒙専制君主フリードリヒ2世(大王)が加入し、続いて1771年にはドイツの代表的な啓蒙主義者レッシングが加入していたことからもそれはうかがえる。

・ヨーゼフ2世とフリーメイソン

 マリア・テレジアとフランツ1世の間に生まれたヨーゼフ2世(1741-1790)は、すでに父がフリーメイソンであったことやフリードリヒ大王(1712-1786)を尊敬していたことから、啓蒙主義に積極的であった。1780年に共同統治をしていた母マリア・テレジアが逝去すると単独統治に乗り出しフリーメイソンを庇護する政策をとったために、ウィーンでは貴族や知識人などが次々とフリーメイソンに加入してきた。

モーツァルトが『魔笛』を作曲したウィーンは、以上のように政府の庇護のもとで、非合理主義的な神秘主義と合理的な啓蒙主義が「フリーメイソン」という1つの容れ物のなかで融合されていた時代にあった。このことから、『魔笛』にも神秘主義、啓蒙主義それぞれの特徴が見て取れる。

■『魔笛』とフリーメイソンの関係

 最後に、フリーメイソンの象徴が『魔笛』の中でどのように表れているかを確認してから、第一幕十四場のパパゲーノとパミーナの二重唱「愛を感じる男の人たちには」に表現された『魔笛』における18世紀フリーメイソンのテーマを見てゆこう。

象徴について具体例を挙げる。まず、タミーノ、パミーナが神殿で受ける「試練」は、そのままフリーメイソンの参入儀礼を表している。特にタミーノは「徒弟」「職人」だけではなく、「親方」の参入儀礼までをも受けていると読み取れる。なお「親方」の参入儀礼においては、ヒラムの復活伝説を題材とした「死からの復活」がテーマとなっている。タミーノも「死の暗い夜」を進んで試練を受けるが、鎧武者の説明によると、「死の恐怖を克服しうるとき、彼は大地の中から天に向かって 飛 翔 する」。

ではタミーノ、パミーナは様々な試練を乗り越えた末にどこに辿り着こうとしているのだろうか。この問いはすなわち18世紀フリーメイソンがどこに目的(=テーマ)を据えていたかと言い換えられるのだが、それを『魔笛』では上記二重唱によりこのように表現されている。

愛の至高の目的は明確に示されている
女と男である以上に高貴なことはない
女と男である以上に高貴なことはない
男と女、女と男
2人は手を取り合って崇高な神の世界へと進む

また十九場では、次のように宣言される。

徳と正義が
大道を名誉によって覆うとき
その時この世界は天国となり
死すべき人々も神に等しい存在となる

この「神の世界に入る」「人間が神になる」という図式は、西欧神秘主義の中に古代から近代へ脈々と受け継がれている思想である。ここにフリーメイソンの神秘主義的な要素を見つけることは難しくない。

さらに「徳と正義が大道を名誉によって覆う」というのは啓蒙主義的な思想と見て取れる。この行為が行われたことにより、「この世は天国となる=社会の完成」と「死すべき人々も神に等しい存在になる=人間の完成」と読み解くこともできる。つまり18世紀フリーメイソンでは、神秘主義と啓蒙主義の融合により社会、人間の完成を目的としていたのである。

 よく言われていることだが、『魔笛』のストーリーは矛盾が多く、破綻をきたしているように思われる。しかし18世紀フリーメイソンという視点から作品を読み直してみると、そこには「お姫様救出劇」や「勧善懲悪」としてではない、一貫して社会と人間の完成を謳う全く新しい『魔笛』が現れてくるのである。

以下、参考文献
『フリーメイソン』 吉村正和 講談社現代新書 1989
『西洋音楽史 「クラシック」の黄昏』 岡田暁生 中公新書 2005
『神聖ローマ帝国』 菊地良生 講談社現代新書 2003
『モーツァルト』 海老沢敏 音楽之友社 1961
『精神史としての音楽史』 野村良雄 1956
『モーツァルトの手紙 ―その生涯のロマン― 上/下』 柴田治三郎編訳 岩波書店 1980

▲このページのトップへ

 第3回定期演奏会の曲目紹介
 第1回定期演奏会の曲目紹介