交響曲第7番を彩る特殊楽器
Herdenglocken(ヘルデングロッケン/独語)
家畜の鈴。 英語ならCowbell(カウベル)、つまり「牛の鈴」です。
牛飼いの人たちは牛を放牧する時にどこに行ったか分かるように鈴を牛の首にぶら下げておきます。
猫の首に付ける鈴はかわいらしいものですが、牛ともなればサイズも大きいので、鈴というより鐘です。
日本ではあまり印象にないのですが、牧畜の盛んな地域、特にアルプス地方ではおなじみの風景なのだそうです。
Herdenglockenが使われるクラシック曲はあまりありませんが、マーラーと親しかった2人の作曲家が用いています。 Rシュトラウスの「アルプス交響曲」では、山を登っていく途中ののどかな風景を描写しています。 ウェーベルンの「管弦楽のための5つの小品作品10」では、抽象的な(意味を持たせない純粋な)“音”を形成しています。 2曲ともマーラーの死後に発表されているため、特にウェーベルンの場合はマーラーへのオマージュと考えられています。
さて、マーラーは第6交響曲と第7交響曲でHerdenglockenを使用しています。 どちらの曲にも共通しているのですが、最初は静かな部分で、かすかに(舞台裏から)鳴らす、と書かれています。 マーラーがアルプスの大自然で放牧されている牛の、かすかな鈴の音を聞いて、その朴訥とした響きに魅せられたのであろうことは、想像に難くありません。 ただし第6交響曲の注釈では「放牧牛の鈴の音を模倣して、しかし描写的な解釈を許すものではない」とはっきり書かれています。 そして第7交響曲の最終楽章で登場するHerdenglockenは、様々な楽器が鳴らされる場面で強奏で重ねられます。 牛の群れが目の前に来たような騒々しさを表すのでしょうか?、いや、ここでもマーラーは描写的でなく、観念的な「何か」を表そうとしていたのだろうと考えられます。