交響曲第7番を彩る特殊楽器
Tenorhorn (テノールホルン)
第7交響曲の冒頭で朗々と主題を奏でるテノールホルン。
この旋律の奇妙な音階や、管弦楽で耳慣れない音色であることから、異色の楽器と称されることが多いが、そうとも限らない。
吹奏楽においてテノールホルンは比較的メジャーな楽器であり、吹奏楽の流儀により、大きくアメリカ式、イギリス式、ドイツ式に分類される。
アメリカ式はいわゆるB管ユーフォニウムであり、イギリス式はEs管である。
マーラーが第7交響曲で指定されているテノールホルンは、スコアでB管指定であることとマーラーの生活圏からドイツ式であることが容易に想像できる。
このドイツ式テノールホルン、ドイツ式だけあってオーバル(卵)型の巻きを持ち、ロータリーバルブを備えている。 ワーグナーチューバに似ているが、管の巻きは逆。 ユーフォニウムより細めの管を持ち、ドイツの吹奏楽や軍楽隊ではやや管の太いバリトンとともに美しいオブリガートを担当することが多い。 マーラーは軍楽隊の演奏を耳にすることも多かったはずで、きっとテノールホルンの奏でる旋律もよく聞いていたのであろう。
マーラーは、全交響曲のうち第7交響曲にのみ、しかも冒頭の大旋律にテノールホルンを用いている。 マーラー自身はこの冒頭部分を「自然が吼える」と語ったという説もあるが、ここで何を表現したかったのであろうか。 ハ長調の官能的な喜びで完結する第7交響曲の冒頭で、テノールホルンの強い響きをもってあいまいともとれる主題を提示する。 マーラーの世界観を再認識させられるこの表現にテノールホルンが重要な役割を担っている。