I.作曲の経緯
グスタフ・マーラー(1860-1911)の残した歌曲集としては、「亡き子をしのぶ歌」、「リュッケルトの詩による歌曲集」、「子どもの不思議な角笛」などと並んで非常に有名な作品ですが、この曲がどのようにしていつ完成したのかについては必ずしも明確ではありません。
1884年から85年にかけて作曲され、その後大幅な改訂が施されつつ、96年に管弦楽伴奏版(ピアノ伴奏版もあり)がベルリンで初演されたというところまでは間違いないようです。作曲者20歳台後半から30歳台中盤までの約10年間に当たります。比較的若い頃の作品です。
II.曲の内容
そもそも「さすらう若人」(ein fahrender Geselle)とはどういう若者のことなのでしょうか。
実は、ドイツ語の「ein Geselle」という語の第一義は「マイスター(親方)の称号を取得するためにドイツ語圏を広く渡り歩く職人」のことを意味しているので、必ずしも「若者」とは限らず、「さすらう若人の歌」というより「遍歴職人の歌」あるいは「渡世職人」とでも訳す方がより適切ではないかという説が昨今強くなっています。
その意味でいえば、まさに作曲家としての道を悩みもがきながら模索しドイツ各地を遍歴していたマーラー自身の姿がここに表現されている自叙伝的な楽曲とする分析もあながち見当外れではないように思われます。
曲は、「愛しい人の婚礼の日に」、「けさ野辺を歩いたのは」、「僕の胸の中には灼熱の刃が」、「愛しい人の二つの青い眼」の4曲から成り、第2曲目と第4曲目に登場する主題は、後年、交響曲第1番「巨人」の中のテーマとしても流用されています。
主人公が男性であることからバリトン歌手によって歌われることが多い曲ですが、特に独唱に関する限定はなく、本日はソプラノの蔵野蘭子さんがこの作品を取り上げてくれます。
(*本稿は第7回定期演奏会パンフレットに掲載されたものです。禁無断転載)
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