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楽譜係のおしゃべり

楽譜係のおしゃべり No.22(2000/8/21 掲載分)

#♭♪ 音量バランスに気を配ろう ♪♭#

新保 邦明

■強弱記号の意図は、スコアを見ないと分からない

 ドヴォルザークの作品は、しばしば「メロディー嗜好の通俗曲」とネガティヴに評価されることがあるようだ。私たちも、最近演奏したブラ1やシベ2などに比べると、今度のドボ8は「簡単簡単!」と見くびってはいないだろうか。

 新しいCDがリリースされるたびに斬新な解釈で話題をさらう名指揮者ニコラウス・アーノンクールは、そのような安易な考え方に真っ向から異を唱え、次のように警鐘を鳴らしている。

ドヴォルザークの作品は、極めて深いものに満たされています。 (中略) これらは単なる感傷ではなく、より深い人間の感情表現です。同時にそれは、ちょっと間違えただけで台無しになってしまう種類の音楽でもあります。金管楽器の音量調節に失敗すると、全体はすぐにも騒々しい金管コラールの洪水(確かに輝かしくはあるのですが)になってしまいます。

 これは、ドボ8の練習を始めたばかりの私たちにとって、まさに「金言」であると言えよう。私はこの曲の1stトランペットを吹いた経験があるのでよく分かるのだが、とにかく「よく鳴る」音域で書かれている。だから、金管の音量を意識的にコントロールする努力抜きにしては、ドボ8の美しい演奏はありえない。表現は悪いかもしれないが、野放しにするとチャイコフスキーになってしまうのだ。

 私たちアマチュアプレーヤーは、楽器間のバランス調整を、全面的に指揮者に任せてしまうケースが多い。自分のパート譜しか見たことがないのでは、それも仕方ないだろう。しかし、スコアを注意深く眺めれば、私たちのレベルでもできることがたくさんあることに気がつくはずだ。例えば、以下の箇所について、各パートに付いている強弱記号を比較してみるだけでも、演奏する際にいろいろ気を配れるようになるだろう。主張すべきところと抑えるべきところをきちんとわきまえる。これが「垢抜けた」ドボ8演奏への近道だと思う。

第1楽章: 1〜2(Trbのみpp)、33〜36(Trpはfひとつ)、54〜56(木管&金管はfひとつ)、77〜78(木管はfp>で、弦は3拍目がfp)、85&87(Fgのみ<で、他は>)、157〜158(Clのみmfで、他はp)、172〜173(弦は木管よりpが多い)、198〜201(Trbはfひとつ)、207〜212(Trpはfひとつ)、219〜232(Trpはfひとつ、Timpはff>pで以後sempre p、低弦はffで入る、Vn&Vlaはfzの位置に注意)、233〜234(Timpの<が2nd-Trbの<に先行)、279〜288(Hrnを除く金管はfひとつ、木管はff)

第2楽章: 49〜56(Fl&Obはmpで、他はpかpp)、69〜71(Trpはfひとつのまま)、93(Flはここだけmf<)、122〜128(Trpのみmfで、他はfかff)、133〜138(Fl&Obはmpで、他はpかpp)、151〜152(Fgのみpで、他はpp)

第3楽章: 1〜11(1st-Vnのみfで、他はpかpp)、20〜22(Clのみ<f)、23〜24(Trpはfzではなくfだがdecrescなし)、64〜65(Trpにもdecrescあり)、82〜83(Flの<>頂点は83の頭)、87〜92(Fl&Ob&Vcはmpで、他はpp)、87〜102(Timpはsempre pp)、107〜112(弦の<位置が各パートで異なる)、119〜126(木管&Vcはmp、他はpp)、190〜198(金管&Timpはfひとつ)、216〜224(全員ff)

第4楽章: 82〜85(弦はfppでcrescしてもmfまで)、95(トリルのあるパートはfz)、144〜153(Trpはfひとつ)、167〜178(Trb&Tubaはfひとつ)、200(全員いったんfに落とす)、206〜213(低弦はアクセントをきちんと)、230〜234(Trbはfひとつ)、266〜267(Flはpで、他はppかppp)、292〜297(Ob&Clはpで、弦はppp)

 

■推薦CD

 ドボ8演奏の参考にするのであれば、地元(チェコ)や東欧・ロシアのオケによるものは避けたほうが無難。曲自体がスラヴ色濃厚なので、オケもそうだと「しつこく」なってしまいやすい。米国・西欧のオケによるスッキリした演奏から、いくつか選んでみた。

●ドヴォルザーク:交響曲8ほか、セル(指揮)、クリーヴランド管(SONY, 1958)

●ドヴォルザーク:交響曲8ほか、ワルター(指揮)、コロンビア響(CBS/SONY, 1961)

●ドヴォルザーク:交響曲8&交響詩「真昼の魔女」、アーノンクール(指揮)、ロイヤル・コンセルトヘボウ管(TELDEC, 1998)

●ドヴォルザーク:交響曲6&8、チョン・ミュンフン(指揮)、ウィーンフィル(Grammophon, 1999)

 

川響楽譜係(Tp新保)

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