川響オフィシャルウェブ
楽譜係のおしゃべり

楽譜係のおしゃべり No.1(1998/11/30 掲載分)

#♭♪ ベーレンライター版の再認識を! ♪♭#

 

■楽譜係からのお願い

●ベーレンライター版の「違い」と「意義」を再認識しよう

 今回の第9は、従来のブライトコプフ旧版ではなく、ベーレンライター新原典版を用いて演奏します。その意義については、練習に先だってマエストロ(井上氏)から詳しい説明がありましたから、ここでは繰り返しません。しかしながら、練習で聞こえてくる音から判断するかぎり、団員の中にはまだまだ認識の甘い方がいらっしゃいます。「違う」はずの箇所が従来と同じに演奏されているのを、たびたび耳にするからです。

 違いは「おたまじゃくし」だけではなく、強弱記号(有無、位置のずれ、fの数など)、タイ/スラーの掛かり方、速度記号など多岐に渡っています。長年の癖というものは恐ろしいもので、体で覚えてしまっているため「違い」に気づかないでいるというケースが多いように見受けられます。私は大丈夫と思っている人も、もう一度初心に返って再チェックしてみてください。特にパートトップの方々には強くお願いします。まさか、自分だけこっそりブライトコプフ版のコピーを使っている人はいないでしょうね……。

 これだけ申し上げてもまだピンとこない方のために、自己診断用の譜面を以下に掲げておきましょう。これらは「違い」の中でも超有名な箇所で、ハッキリわかる部類のものです。どれについても「ははん、あそこのことね」と納得している人は合格。もし、ひとつも自覚していない人がいたとしたら、冗談抜きで相当の重症と言えます。すぐに周りの人に助けを求めましょう。

 アマチュアでいち早くベーレンライター版の第9を取り上げるということに対して、私たちはもっと誇りを持つべきです。そして、その機会を与えてくださったマエストロに感謝をしつつ、作曲家の意図していた響きに少しでも近づけるよう、謙虚にかつ大胆になろうではありませんか。

 

■推薦図書

●金子建志「こだわり派のための名曲徹底分析 交響曲の名曲・1」(音楽之友社)

 第9のベーレンライター版は、従来のものとどこがどう違うのか。この疑問に丁寧に答えてくれるのが、この本の後半です。前半はシューベルト「未完成」についてのレポートで、こちらも読みごたえがあります。2,400円+税。

 

■推薦CD

●ベートーヴェン:交響曲5&6「田園」、ジンマン指揮、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団(ARTE NOVA/BMG)

 モダン楽器によるベーレンライター原典版世界初録音。「あるべき姿」とは、まさにこういうこと。純真な村娘は、化粧なんかしないほうがずっと美しいではないですか。古典派の音楽も同じですよね。この演奏では、等身大のベートーヴェンその人が、直接語りかけてきます。ハイライトは、運命第1楽章のあっと驚くオーボエソロ(268小節)、それに田園第1楽章のコブシをきかせた第2主題(67小節)。えっ、そんなに違うのって? それは聴いてのお楽しみ……。今どき1、000円(輸入盤は880円)でこれだけ楽しめることなんて、そうありませんよ。演奏そのものも素晴らしい仕上がりです。ほかに3&4、7&8が出ています。ただ、重大な問題点がひとつあるのでお断わりしておきましょう。それは、どれか1枚でも買ってしまったら、そこでやめておくことが非常に難しくなるということです。マエストロにこの話をしましたら、嬉しそうにひと言、「それ、はまってる人けっこういるんだよ」。

<補足> 1999年4月現在、1&2および9「合唱付き」も出そろいました。全集としても購入できるようになっています。

 

川響楽譜係(Tp新保)

 TOPページへ  楽譜係のおしゃべり目次へ