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楽譜係のおしゃべり

楽譜係のおしゃべり No.15(1999/12/20 掲載分)

#♭♪ 日本の現代名曲を聴こう ♪♭#

新保 邦明

■現代日本の作曲家ビッグ6

 20世紀生まれの日本人作曲家の中から代表的な6人を、楽譜係の独断と偏見で選んでみました。なぜ中途半端な6という数字になったかというと、この中の一人でも外すのは難しいし、ビッグ7にしようとすると、もう一人を誰にするかで非常に悩んでしまうからです。今まで日本の作品を敬遠してきた方も、とにかくこの6人を知ることから始めてみませんか。意外と親しみやすい作品が多いのですよ。

●伊福部 昭(1914-)

 現代日本のクラシック音楽界は、この人抜きにしては語れない。親しみやすく土俗的なエネルギーに満ちた作風は、アルメニアのハチャトゥリアンに通じるものがある。釧路市に生まれ、素朴なアイヌの音楽に親しんだことが強く影響しているという。東宝映画「ゴジラ」の♪ドシラ、ドシラ、ドシラソラシドシラ……という有名なテーマを知らない人はいないはず。あの印象的な音型は、6年前の作品「ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲」の第1楽章から採られたものだ。

●芥川也寸志(1925-1989)

 作家、芥川龍之介の三男。伊福部譲りのオスティナート手法が、彼独自のリリックなメロディーラインと合体し、数々の魅力的な作品が生み出された。一度聴いたら絶対に忘れられないようにできているものが多い。NHK大河ドラマ「赤穂浪士」のテーマは、その特徴が端的に現われた名作と言えよう。♪小鳥はとっても歌が好き……という童謡も彼の作品だ。創作活動に加えて、音楽著作権の擁護やクラシック音楽の啓蒙活動にも力を入れていた。黒柳徹子さんとのテレビでの名コンビが懐しい。

●團 伊玖磨(1924-)

 この人の代表作は童謡「ぞうさん」だ。こう言うとご本人に叱られるかもしれないが、お年寄りから幼稚園児まで誰もが知っている驚異的名曲なのだからしかたがない。♪あんまり急いでこっつんこ……の童謡「おつかいありさん」、♪七色の谷を越えて……で始まる合唱曲「花の街」も有名である。これらの小品を別にすれば、出世作はなんと言っても歌劇「夕鶴」。日本語のオペラの中で断トツ1位の上演回数を誇る名作中の名作である。随筆家としても知られ、「パイプのけむり」シリーズは多くのファンを持つ。

●黛 敏郎(1929-1997)

 ジャズへの傾倒、ミュージックコンクレート、カンパノロジー……。常に過激な実験に挑んだ作品の数々は、どれもが異彩を放っていると言えよう。彼の出世作「涅槃交響曲」を私が初めて放送で耳にしたのは、中学生のときだった。翌日すぐにレコード店に走り、注文してやっと手にいれたシュヒター指揮/N響のLPを今でも持っている。久しぶりの再演に立ち会った黛氏が「あんまり合いすぎるのもどうですかねえ」と言っていたのが印象的であった。バレエ音楽「舞楽」、曼陀羅交響曲、雅楽「昭和天平楽」なども力作である。

●武満 徹(1930-1996)

 「国際的な注目を集めた」という観点からは、この人の右に出る者はいない。それまでの誰の音楽とも似ていない独特な響きは、Takemitsu-toneという新語まで生みだした。代表作と言われるノヴェンバー・ステップス(1967)は、確かにエポック・メーキングな秀作ではある。しかし、彼の音楽の神髄を味わいたいなら、調性が戻ってくる晩年の作品やメロディーの美しい映画音楽を聴くほうがよいだろう。とりわけ弦楽器の奏でる和声には、聴く者を柔らかな繭に包み込んで天上へ連れ去ってしまうような、深い優しさがある。

●矢代秋雄(1929-1976)

 この人を早く失ったことは、日本の作曲界にとって大きな痛手となった。フランス仕込みのデリケートでしかも奥の深い音楽に浸っていると、この人は本当にフォーレ(1845-1924)の生まれ変わりだったのでは……と思えてくる(ただし、ご本人はフォーレが嫌いだったらしい)。作品の数は極めて少ないが、どれもが香り高い名品に仕上がっている。特にピアノ協奏曲とチェロ協奏曲の2曲は、すでに世界的名曲に数えられていると言って差し支えない。一方、編曲ものも極めて結晶性が高い。CD「パイヤール/日本の調べ」(DENON)は涙なくしては聴けないほどに美しい。

 

■推薦CD

●伊福部 昭:『伊福部 昭の芸術1/譚−初期管弦楽』、広上淳一、日フィル(FIREBIRD)

●芥川也寸志:『蜘蛛の糸/芥川也寸志の芸術1』、本名徹次、日本フィル(FIREBIRD)

●團 伊玖磨:歌劇「夕鶴」、若杉 弘、読響ほか(Victor)

●黛 敏郎:「涅槃」交響曲(1958)、岩城宏之、都響、東混(DENON)

●武満 徹:『夢千代日記/波の盆』、岩城宏之、オーケストラ・アンサンブル金沢ほか(JVC)

●矢代秋雄:ピアノ協奏曲(1967)、舘野 泉(p)、岩城宏之、都響/ チェロ協奏曲(1960)、堤 剛(vc)、佐藤功太郎、都響(DENON)

 

川響楽譜係(Tp新保)

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