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9月定期プログラムより
(2005年9月19日)

5.『フェスティヴァルの夏』

バイロイト・ワーグナー祭

 ドイツの夏の音楽祭、フェスティヴァルのトップは、ドイツ南部バイロイトで開かれる『ワーグナー祭』(http://www.bayreuther-festspiele.de/ 毎年7月25日−8月28日)です。ここは国(連邦)に加え、バイエルン州や地元自治体等が強力に支援しています。もちろん民間スポンサーもついています。この支援のおかげでチケット料金も低く設定され、今年は最低席5.5ユーロから最高席183ユーロまで、つまり750円から2万5千円ほどでした。 

前号でも触れましたが、バイロイトのチケット入手は簡単ではありません。個人で申し込む場合は、遅くとも9月末までに正規申込書を手に入れ、これに書き込み10月15日までにバイロイトのチケット・ビュローに送付しなければなりません。正規申込書の入手もバイロイトに申し込まなければなりません。ただし、一度申し込むと翌年からは自動的に申込書が送られてきます。チケットが確保できた場合には、クリスマスまでに通知があります。確保できなかった場合は、新年早々に通知があるはずです。

ほかの入手方法については前回述べましたが、もちろん当日売りも多少あります。旅行会社などへの割り当て分の返還チケットです。これは当日の10−12時と公演1時間半前から売り出します。ただ、このチケットを求めるためには朝の6時頃から並ぶ覚悟も必要なようです。

今年は《ニーベルングの指輪(リング)》4作の上演がない代わりに、マルターラー演出、大植英次指揮の新制作《トリスタンとイゾルデ》で開幕し、《さまよえるオランダ人》、《パルジファル》、《タンホイザー》、《ローエングリン》と5作品が上演されました。

私はちょうど日本にいたので、ドイツの主要各紙の初日評をオンラインでチェックしました。どの評も大植の音楽づくりには非常に厳しく、いったいどうなるのかと心配していたら、大植のバイロイトは1年限りで終わってしまいました。大植選抜はドイツの関係者の間ではミステリーといわれていましたが、オペラ経験の無に等しい大植には荷の重い仕事だったようです。これからドイツ語をもっと勉強し、ドラマ経験を積めば、才能のある人ですから、きっと次のチャンスは訪れるでしょう。

ドイツにはバイロイト以外にもフェスティヴァルは大小たくさんあります。今回は州や自治体が積極的に財政支援するフェスティヴァルを2つご紹介しましょう。これらは素晴らしい成果をあげています。


シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭

 そのひとつは今年20回目を迎えた、ドイツ北部、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州を中心に開かれる広域音楽祭『シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭、SHMF』(http://www.shmf.de/ 7月9日−8月28日、)です。州内とハンブルクなど周辺都市、合わせて41の自治体の70会場で、148回ものコンサートなどを行いました。

今年のテーマは《日本−響きの島》で、アンサンブル金沢やバッハ・コレギウム・ジャパンなど、日本からアンサンブルや伝統音楽団体、能楽、声明、和太鼓、そして堤剛、今井信子、内田光子、五嶋みどり、庄司紗矢香、宮田まゆみ等々、たくさんの音楽家が参加しました。これだけの規模で日本人の作品を紹介し、日本人音楽家を登場させた外国のフェスティヴァルはこれまでありません。このフェスティヴァルは州の支援に加え、民間のメインスポンサーが運営の鍵を握っています。


ルール・ピアノ・フェスティバル開幕コンサートに登場したポリーニ

ルール・ピアノフェスティヴァル

 今年非常に意欲的だったのは西部の『ルール・ピアノフェスティヴァル』(http://www.klavierfestival.de/ 6月17日−8月19日、)です。これはドイツの人口集中地方、ライン、ルール川周辺の主力産業都市を統括した広域フェスティヴァルです。エッセン、ドルトムントのコンサートホールをメインに、デュースブルク、ボーフム、ミュールハイム等、今年は14の自治体の会場を使い、310人のピアニストが参加しました。エッセンでの開幕は目下若手人気ナンバー・ワン、ラン・ランのリサイタルが飾りました。

 SHMFが北部のウォーターフロントと平地の牧歌的風景に恵まれるのに比べ、こちらはコンサートホール、旧炭鉱施設や旧大工場等をも会場にする半ば都市型です。フェスティヴァルはソロ、デュオ等のリサイタルから協奏曲、もちろんジャズまで、ピアノが含むものすべてです。ピアノ音楽のファンにはお勧めしたいフェスティヴァルです。

今年はポリーニがエッセンでベートーヴェンを弾いた翌日に、バレンボイムがケルンでオール・ベートーヴェン・プログラム、その数日後にA・シフがドルトムントでオール・ベートーヴェン・プログラムを弾くというように、現在のピアノ演奏界の大スターたちが続々と登場しました。アルゲリッチもブレンデルも登場しました。

ポリーニは左手とペダルでつくるパステルカラーの音のもやの中へ、右手で気品に満ちた透明度の高い音を刻み込んでいました。ポリーニが色彩豊かな独自のベートーヴェンの世界を聴かせた翌日には、ポリーニと同じスタインウェイで、バレンボイムが力強く、ピアノから最大限の音を引き出しながら、ベートーヴェンの音楽の構築性を余すところなく聴かせ聴衆を圧倒しました。こちらは白と黒のベートーヴェンといえるかも知れません。またシフはベーゼンドルファーの古楽的響きと揺るぎない構成の中で、詩情豊かにベートーヴェンの音楽を丁寧につくり上げていました。こんなスター3人三様のベートーヴェンが短時日に聴けるのはとても興味深く、音楽の底の深さをまざまざと見せつけるものでした。ここのチケットは大スターのコンサート最高席でも65ユーロ、9000円ほどです。


同じくルール・ピアノ・フェスティバル開幕コンサートに登場したラン・ラン