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6.『新しい05/06シーズンの開幕』

 9月に入りヨーロッパ各地では新しい音楽、演劇シーズンが開幕しました。このオペラ・演劇シーズンは、長いところで来年7月まで続きます。ちなみに旧シーズンと新シーズンの間が夏の音楽祭、フェスティヴァルのシーズンになります。

−コンサート−

ボン・ベートーヴェン・フェストの新首席パーヴォ・イェルヴィ指揮、ブレーメン・カンマ−フィル

 コンサートでは、9月にブレーメン音楽祭やボン・ベートーヴェン・フェスト、オーケストラの客演コンサート、定期演奏会へ足を運びました。ピアノでは内田光子のほか、ドイツの若手マルクス・グロー、マーティン・ヘルムヘンを聴きました。この2人は今後が大いに期待できます。

 期待できるというと、ヴァイオリンのユリア・フィッシャーを久しぶりに聴きましたが、彼女も大きな成長を見せていました。ムター後の若手ナンバー1といわれますが、今後に残る演奏家でしょう。ほかには若手チェリストのアルバン・ゲアハルトも聴きました。彼も石坂団十郎など優秀な若手グループの1人です。

 日本でも同様ですが、若い優れた演奏家がいつまで演奏家生活を続けられるかは、本人の才能と努力次第です。20代で優れた演奏をしていても、音楽的に歳に見合う発展の跡が見えないと、次々に現れる若手演奏家に演奏の場を奪われてゆきます。

 コンサートでは、前ハンブルク・オペラ音楽総監督のインゴ・メッツマッハー指揮マーラー・ユースオーケストラを聴きました。このオーケストラは、この夏聴いたいくつかのユースオーケストラの中で一番良い演奏をしていました。とはいえ、マーラー・ユースも良い演奏ばかりしているわけではありません。これはその年の演奏者の水準、トレーナーの水準、指揮者の能力が大きく反映します。それでも年々ユースオーケストラ活動が盛んになるのは、若者の新鮮な音楽への感動が聴衆に直接伝わり、支持者が増えているからでしょう。

 ほかにブレーメン・ドイツ・カンマーフィルを新首席パーヴォ・イェルヴィの指揮で聴きました。このオーケストラはまだ歴史が25年ほどで、もとはというとユースオーケストラのメンバーたちが力を合わせつくったオーケストラです。コアとなるメンバーは35人ほど、これに常時加われるメンバーを合わせ、最大規模で80人を超えるオーケストラにもなります。ドイツには珍しい常設民営オーケストラで、ブレーメン市は年間予算の半分弱を補助しています。少人数で指揮者なしのアンサンブルもしているせいか、アンサンブルは良く、またベルリン本拠のヨーロッパ室内管弦楽団と比べると、ブレーメン・カンマーフィルは音がドイツ的といえます。

 

−オペラ−

 オペラのシーズン・スタートはコンサートに比べ、いくらか遅れます。私のシーズン最初のオペラ体験は、スロヴァキアへ出向き、16日にブラティスラヴァ・オペラの幕開け、コンヴィチュニー演出≪エフゲニー・オネーギン≫初日を観ました。

 ブラティスラヴァはウィーンから60キロほどしか離れていませんが、この町ではドイツ語が意外なほど通じないのに驚きました。チェコのプラハのほうがはるかによく通じます。この公演は95年にライプツィヒで新演出上演されたものの再演ですが、ウィーン国立オペラのホレンダー支配人の姿も見えました。この演出の新しいところは、3幕冒頭のポロネーズにバレエを登場させず、2幕のストーリーを引き継ぎ、オネーギンがレンスキーの亡骸を抱え死の舞踏とするところです。また個々人への演出、とくにタチヤーナやオネーギン、コーラスの演技演出には目を見張るものがあります。ただしオーケストラもコーラスも、水準は1級とはとてもいえないのが残念です。劇場自体は大きくはありませんが、内外とも美しく改装され、町の景観に大きなアクセントになっていました。

 この翌日、17日はドイツに戻り、シュトゥットガルト・オペラのシーズン開幕公演を観ました。演目は、第9回目の≪リング≫初日≪ラインの黄金≫(ヨアヒム・シュレーマー演出)でした。この日の上演は、これまで観たこの上演中でも最も優れていると思えるほど緻密に描かれ、ローター・ツァグロゼク指揮のオーケストラがシーズン開幕から素晴らしい演奏をし、歌や演技を加えた全体がとてもバランスよく高度に仕上がっていました。フェスティヴァルのバイロイトより中身の濃い上演ができるのは常設劇場の強みだというのをまざまざと見せつけた上演でした。18日は引き続き≪ワルキューレ≫(クリストフ・ネル演出)を観ましたが、これもこれまで何回か観た上演では上位にランクされるもので、ブリュンヒルデのヘルリチウス等々、何人かは初演当時とは違う人が歌っていました。ちなみにヘルリチウスはバイロイトの先の≪リング≫でもブリュンヒルデを歌っていますが、≪ジークフリート≫、≪神々のたそがれ≫に出てくる同じ役でも、ヘルリチウスは≪ワルキューレ≫のブリュンヒルデが適役でしょう。シュトゥットガルトの≪リング≫は各演目で演出家が代わるだけでなく、ブリュンヒルデなどの役柄も、作品に合わせて代えています。公演後ヘルリチウス、ツェーライン支配人、ツァグロゼク音楽総監督と誰もいなくなった劇場食堂で深夜2時頃まで語り合い、翌日自宅に戻りダウンしました。≪リング≫後半2作は10月の最終公演で観る予定です。

ブラティスラヴァ・オペラ全景
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《エフゲニー・オネーギン》
のカーテンコール

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シュトゥットガルト・オペラ全景
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《ワルキューレ》のカーテンコール。中央はブリュンヒルデのヘルリチウス、右へフリッカ、フンディング、左へジークリンデ、ジークムント。左右はワルキューレの女たち。

10月定期プログラムより
(2005年10月13日)