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7.「10月は旅の季節」

10月は、1日にシュトゥットガルトへ向かい≪ジークフリート≫で開けました。3日はシュトゥットガルト≪リング≫の最後の作品≪神々のたそがれ≫、5日はボン・オペラの≪フィデリオ≫、7日はケルン・オペラでヘンツェ≪バッコスの巫女≫、9日はベルリン州立オペラで≪運命の力≫、11日から18日までN響ヨーロッパ公演に同行し、21日はボン・オペラで≪魔笛≫を観ました。このあとも続きます。

シュトゥットガルト・オペラ
シュトゥットガルト・オペラの《神々のたそがれ》カーテンコールでオーケストラに囲まれたブリュンヒルデのデヴォル。

 シュトゥットガルト・オペラは今シーズンでツェーライン現支配人が辞め、ドイツの劇場人最高のポストといわれる、ミュンヘンのバイエルン劇場アカデミー支配人に就任します。彼はドイツ劇場協会会長やドイツ大統領の文化問題顧問、ザルツブルク・フェスティヴァル顧問等も兼務し多忙ですが、ミュンヘンでもこの忙しさは変わらないはずです。音楽総監督のツァグロゼクも今シーズン限りで辞め、来シーズンからインバルのあとを受けベルリン交響楽団主席指揮者に就任します。
 リハーサルに時間をかけ、脇役まで良い歌手でしっかり固める、これが最近10年のシュトゥットガルト・オペラが得た世界的名声の秘密です。優秀な歌手、スタッフを育て集めたのは、ツェーライン支配人と2000年まで共同支配人を務めたローゼンベルク現サンフランシスコ・オペラ支配人の功績です。ちなみに彼女は来年ベルリン・フィル初の女性支配人に就任します。彼女の新人発掘能力とフットワークの良さはシュトゥットガルト・オペラの強力な歌手アンサンブル構築に大きく貢献しました。

シュトゥットガルト≪リング≫

 今回の≪リング≫はシュトゥットガルト・オペラ現体制最後の公演で、裏も表も、歌手もオーケストラもコーラスも、異常なほどの気合を感じました。≪ジークフリート≫はヴィーラーとモラビト共同演出で、01年の最優秀上演作品選考で2位だった作品です。また≪たそがれ≫は同年の最優秀上演作品に選ばれたコンヴィチュニー演出の名作です。この≪リング≫シリーズは5年間で10回上演されました。一般劇場としては記録的な上演回数です。ほかに各作品単独で10回以上は上演していますから、いかにシュトゥットガルト≪リング≫が注目されたかお分かりでしょう。
 ≪ジークフリート≫ではタイトル役のアメリカ人テノール、フレデリック・ウェストの活躍に加え、さすらい人役の重鎮ウォルフガング・シェーネ、ミーメ役のハインツ・ゲーリヒが大活躍でした。≪たそがれ≫はブリュンヒルデ役のアメリカ人ソプラノ、ルアナ・デヴォル抜きには語れません。彼女はいま66歳前後ですが、衰えのない若々しい声はこの年齢にあっては怪物としか言いようがありません。こんな怪物歌手はビルギット・ニルソン以来です。またツァグロゼク指揮のオーケストラも素晴らしい演奏でこの最終回を飾りました。この≪リング≫はDVD(TDKコア)になっています。客席で出会った次期支配人のプールマン現ハノーファー・オペラ支配人によれば、次回公演は08/09年シーズンに行うそうです。

ボンの《魔笛》

オペラ

 ボンの≪フィデリオ≫、ケルンの≪バッコスの巫女≫はとくに観る必要もない出来です。もっと腹立たしかったのはベルリンの≪運命の力≫です。この劇場は出来不出来の落差が大きすぎます。今回の上演は大はずれでした。期待したオーケストラも、前回のロッシーニとは別のオーケストラでは?と思えるほどの低い水準で、この3つのオペラ劇場をオーケストラだけで比べるとケルン、ボン、ベルリンの順になります。
 ≪魔笛≫は世界で一番上演されるオペラであり、来年のモーツァルト年に向け、どの劇場もレパートリーに加えています。ボンの演出は、美術・装置家としてして知られるユルゲン・ローゼの担当です。子供たちもたくさん来ていました。学校から団体で、親と一緒でといろいろですが、終演が10時45分というのはちょっと可哀そう。上演は子供たちにも分かりやすい、メルヘン仕立てです。衣裳・装置もデザイン、色彩が美しく、子供たちも静かに最後まで観ていました。この≪魔笛≫という作品、簡単なようで実は複雑怪奇、魑魅魍魎、不明だらけのオペラです。結末をどう見せるのかも大課題です。ボンは全員並んで大団円。夜の女王とザラストロはどうなったかも不明でした。

ヨーロッパのコンサートホール

ベルリン・フィルハルモニー

 N響ヨーロッパ公演はベルリン、ウィーン、ブダペスト、リスボン、マドリッドと回りました。ベルリンはフィルハルモニー、ウィーンはムジークフェライン、ブダペストは今年春開場した国立コンサートホール、リスボンは3千人収容の大円形劇場、マドリッドは国立コンサートホールがコンサート会場で、ウィーンでは2回の公演で、7日間に6回のコンサートでした。
 この5都市のホールではベルリンが一番優れています。聴く人にはホールの表側しか見えません。しかし、短時間で大きな楽器や楽器ケースが危険にさらされず移動が可能か、ケースの置き場所等の点では、ステージ裏の設計は非常に重要です。
 これらを総合しベルリンを100点とすると、ウィーンは50点です。ウィーンは裏が狭く、楽屋も狭く不便なだけでなく、楽器移動が難しく最悪です。ブダペスト90点。ここは音響面にまだ問題がありますが、ほかは非常に良く出来ています。リスボン60点。ここはサーカスからオペラ、バレーまで上演するホールで、音響は悪くありません。ステージ裏が広く作業は比較的楽ですが、ホール楽屋直前の急坂と内部のかび臭ささが難点です。マドリッド85点。客席部は、狭い幅の中にベルリンのフィルハルモニーのワインヤード形客席を詰め込んだ感じのホールで、裏は設計者の目が十分行き届いていません。
 各国のホールをこうして短時間で見て回ると、最近のホール設計は設計者に情報が行き届き、裏にも目が届くようになったことがうかがえます。

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ブダペスト国立コンサートホール外観
ブダペスト国立コンサートホール内部
リスボンのホール

11月定期プログラムより
(2005年11月24日)