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11月定期プログラムより
(2006年11月20日)
15. 『継続は力』ーオペラ上演、先シーズンの成果

 ドイツ語オペラ月刊誌『オーパンヴェルト』は国際的にもっとも権威あるインターナショナルなオペラ・音楽専門誌です。『オーパンヴェルト』は月刊のほか、毎秋に年鑑を発行します。この年鑑ではその年のトピックスとドイツ内外50人の批評家に「先シーズンの成果」を尋ね、この回答結果を発表します。これは音楽界に限らず広く社会の関心をよび、全国ネットのTVニュースもとりあげます。10月初旬、この『オーパンヴェルト06年年鑑』が発行されました。調査対象の「先シーズン」は05年6月25日から06年7月2日まででした。

最優秀女性歌手に選ばれたキャサリン・ネーグルスタッド。シュトゥットガルトの《アルセステ》カーテンコールで  06年年鑑に回答を寄せた批評家50人の主な仕事場を国別に分けると、ドイツ(37人)、イギリス(4人)、スイス(3人)、アメリカ(2人)、オーストリア(1人)、オランダ(1人)、ロシア(1人)、イタリア(1人)です。ドイツが圧倒的に多くなっていますが、ドイツは約80の常設オペラ・アンサンブルを擁す世界一のオペラ大国ですから、これも当然といえるでしょう。

 アンケート調査部門は、最優秀の<オペラ劇場>、<世界初演作品>、<発掘作品上演>、<全上演>、〈演出/演出家〉、<ステージ美術家>、<衣裳作家>、〈指揮者〉、<歌手>、<期待される芸術家>、〈オーケストラ〉、〈コーラス〉、<関係書籍>、<録音/録画>そしてネガティヴな部門として<最悪な出来事>です。

 06年の〈最優秀オペラ劇場〉に選ばれたのはシュトゥットガルト州立オペラです。シュトゥットガルト州立オペラはこれまでも94、98、99、2000、02年と〈最優秀オペラ劇場〉に選ばれました。これはクラウス・ツェーラインが91年に同オペラ支配人に就任以降、オペラ・シーンを常にリードし、関係者の注目を集めてきた証です。シュトゥットガルト州立オペラ関連では、上記ジャンルから<発掘作品上演作品>でヨーゼフ・マーティン・クラウス作《カルタゴのアエネアス》、<全上演>でクリストフ・ヴィリバルト・グルック作《アルセステ》、<歌手(女声)>でソプラノのキャサリン・ネーグルスタッド、そして<コーラス>でも最優秀に選ばれました。 最優秀美術装置作家に選ばれたフィーブロック(中央の女性)。右は演出家ヴィーラー、左は共同演出のモラビト
 以下、ほかの部門別最優秀をご紹介しましょう。<世界初演作品>はベルリン・ドイツ・オペラ委嘱作品、イザベル・ムンドリィ作曲《オデュッセイア・呼吸》、<演出/演出家>はセバスティアン・バウムガルテン(ベルリン・コーミッシェ・オーパーでのパスティッチョ《オレスト》等)、<ステージ美術家>はアンナ・フィーブロック(バイロイト・ワーグナー祭《トリスタンとイゾルデ》等)、<衣裳作家>はアヒム・フライヤー(マンハイムでのルイジ・ケルビーニ作《メデー》等)、<指揮者>はシモーネ・ヤング(05/06シーズンからハンブルク州立オペラ支配人兼音楽総監督)、<男声歌手>はルネ・パーぺ、<期待される芸術家>部門は票が割れ、ほとんどが1票を獲得、2票獲得したのは2人だけでした。<オーケストラ>はベルリン州立オペラ管弦楽団、<関係書籍>はウルリヒ・シュライバー著『上級者のためのオペラ・ガイド』(全5巻完結)、<録音/録画>はルネ・ヤーコプス指揮《皇帝ティトの慈悲》、そして<最悪の出来事>にはさまざまな回答が寄せられ、ケルン市立オペラのベルント・ヴァイクル演出《地獄のオルフェ》に複数回答が集まりました。

ツェーライン支配人時代最後のシーズンのシュトゥットガルト・オペラ劇場正面
 ついでに、この回答に登場した日本関係を紹介しましょう。<世界初演作品>に三木稔作曲《愛怨》、<指揮者>に《愛怨》指揮の大友直人、ほかに大野和士、<歌手>に藤村実穂子、<衣裳作家>にヤバラ・ヨシオ、<最悪の出来事>に「大植英次のバイロイト《トリスタンとイゾルデ》指揮」がそれぞれ1票を得ました。

 『オーパンヴェルト』誌のシュテファン・メッシュ編集長が回答結果とシーズンの総括を行っていますが、テーマは『継続性』です。メッシュ氏は、「オペラ・アンサンブルには時間が必要であり、芸術的かつ組織的『ガイドライン』を設定しなければならない。指揮者はオーケストラの音色、スタイルをつくりあげるのに時間が必要だ。コーラスはオペラ400年の歴史を網羅するレパートリーをこなす必要があり、それには何年もかかる。マネージメント部門は担当者が培かった経験をもとにスムーズに運営しなければならない。歌手は注意深くレパートリーをつくり、演出家は歌手と共にコンセプトを実現するリハーサルに時間が必要。観客や聴衆はその劇場とじっくりつきあい、自分自身で考えなければならない」としています。また「その対極が『怠惰な伝統』であり、『レトロ主義的イヴェント』だ」としています。

最優秀上演に選ばれた《アルセステ》のステージ。美術は最優秀美術装置作家に選ばれたフィーブロックの作

最優秀指揮者に選ばれたハンブルク州立オペラ支配人兼音楽総監督のシモーネ・ヤング
 人間活動のすべてにあてはまることですが、時間をかけ継続することはとても重要であり難しいことです。しかし『継続は力なり』といいます。すべての『本物』は一朝一夕につくられるものではありません。今日では即効性、即戦力、話題性が重要視され、次々にスターがつくられては消えてゆきます。芸術としての音楽の世界にも『消費』の波が押し寄せています。この『オーパンヴェルト』のアンケート調査結果と編集長総括は、この現状に警鐘を鳴らすものといえるでしょう。

最優秀発掘作品に選ばれたシュトゥットガルト・オペラの《カルタゴのアエネアス》からと最優秀オペラ合唱団の選ばれた合唱団