来住 千保美 Chiomi Kishi
第288回定期プログラムより
(2008年10月28日)
30. メクレンブルク=フォアポメルン・フェスティヴァル、バイロイト・ワーグナー祭支配人決定

★メクレンブルク=フォアポメルン・フェスティヴァル

 ドイツ北東部のメクレンブルク=フォアポメルン州では毎年夏にフェスティヴァルが開かれます。州内の劇場、ホール、城館など60以上の会場で開く広域フェスティヴァルで、広域ではドイツ第三の規模を誇ります。今年は6月14日から9月21日まで開かれ、112のコンサートが行われました。

 メクレンブルク=フォアポメルン州の面積は約2万3千平方キロ、人口約170万人、人口密度は73人/平方キロです。北はバルト海に面し、大農場が広がります。また数多くの湖沼があり、緑に包まれたとても風光明媚な土地です。州都はシュヴェリン(人口約9万6千人)で、たくさんの湖に囲まれ美しい城館があります。州内最大の都市は人口約20万人を抱えるロストックで、ここには大きな港とバルト海沿岸最古の大学があります。バルト海沿岸の街々はかつてハンザ都市として栄えました。今日も立ち並ぶレンガ造りの美しいゴシック建築が往時の隆盛を物語ります。ヴィスマールのマルクト広場は北ドイツ最大の規模を誇り、中世から20世紀までの美しいファサードに囲まれています。シュトラールズントはユネスコ世界遺産に認定され『北のヴェニス』といわれる有名なハンザ都市です。シュトラールズントと対岸のリューゲン島を結ぶアウトバーン橋も完成しました。この島は画家カスパー・ダヴィッド・フリードリヒの作品でも有名です。

第288回定期パンフレットより

 メクレンブルク=フォアポメルン・フェスティヴァルは1985年、同州のハイリゲンダムで開いた『医学者会議』の際に、有志が集り、同州内でフェスティヴァルを開こうと話し合ったのがそもそものきっかけです。ちなみにハイリゲンダムはバルト海沿岸の有名な保養地で、2007年のサミットはここが会場でした。

 フェスティヴァルは東西ドイツ統一後の1990年5月13日にまずシュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭の一部として加わり、その後独立したものです。以後、著名な音楽家や若い音楽家が室内楽、オーケストラ・コンサートなどに登場しています。

 同フェスティヴァルの今年の『レジデンス・アーティスト』はチェロのダニエル・ミュラー=ショットで、12回のコンサートに出演しました。ちなみに06年のレジデンス・アーティストはヴァイオリンのダニエル・ホープ、07年は同じくヴァイオリンのユリア・フィッシャーでした。その他、今年で現役を退くピアニストのアルフレート・ブレンデル、大人気20代指揮者グスターヴォ・ドゥダメルや若手のダニエル・ハーディング、チェロのミッシャ・マイスキーなど、新進から著名音楽家まで多数登場しました。www.festspiele-mv.de/


★バイロイト・ワーグナー祭、ウォルフガング・ワーグナーの後継者選出

 バイロイトのリヒャルト・ワーグナー祭終身支配人の称号を持つウォルフガング・ワーグナー(89歳)が8月末に引退しました。これを受けワーグナー祭財団は9月1日に理事会を開き、後継者として立候補したエファ・ワーグナー=パスキェ(63歳)とカタリーナ・ワーグナー(30歳)のコンビを今後のワーグナー祭共同支配人に選出しました。エファはウォルフガングの先妻の娘、カタリーナは昨秋亡くなった後妻の娘で、2人は異母姉妹です。

 この理事会開催の直前、ニケ・ワーグナー(63歳)とジェラール・モルティエ(64歳)が共同で後継者に立候補しました。ニケはウォルフガングの兄ヴィーラントの娘です。モルティエはブリュッセル・オペラ、ザルツブルク・フェスティヴァル、ルール・トリエンナーレ・フェスティヴァル、パリ・オペラの支配人を務め、今後はニューヨーク・シティ・オペラの支配人就任が決定しています。エファ+カタリーナ、ニケ+モルティエのコンビは、理事会に今後のワーグナー祭運営の独自のコンセプトをそれぞれ送っていました。理事会では両者ともワーグナー祭を率いる実力があるとしながらも、登場結果は22対0でエファ+カタリーナを選びました。契約の詳細はまだ決定していませんが、任期はウォルフガングのときのように終身とせず、5年から7年にするといわれています。ただワーグナー祭の上演作品、演出家などは、すでに2015年までほぼ決定しており、今後どこまで2人が『色』を出し、業績を残せるかは疑問です。さらに契約が7年の場合、契約終了時にエファは70歳になります。ちなみに以前、エファとニケが共同で支配人に立候補した際、カタリーナは「2人は年金受給の年齢だ」と発言していました。こういった事情も合わせ、今後の展望は不明です。しかし若いカタリーナが有利であることは間違いありません。

 2人の役割分担もまだ明確ではありません。エファがキャスティング、カタリーナがメディア・広報担当、スポンサー獲得部門の責任者という役割分担が伝えられています。音楽部門の『芸術アドヴァイザー』として、指揮者のクリスティアン・ティーレマンがその任にあたるといわれます。

 なにはともあれ、長期間続いた後継者問題は、老害といわれたウォルフガングの退任で収束しました。www.bayreuther-festspiele.de/