★バイロイト・ワーグナー祭、新体制で始まる

　今年のバイロイト・ワーグナー祭は７月25日≪トリスタンとイゾルデ≫で開幕、８月28日に同じ≪トリスタン≫で閉幕しました。今年上演されたのは≪トリスタンとイゾルデ≫、≪ニュルンベルクのマイスタージンガー≫、≪ニーベルングの指環≫、≪パルジファル≫で、新制作はありません。また今年は新支配人による最初のワーグナー祭でした。

　1967年から単独で支配人を務めたウォルフガング・ワーグナーが去年を最後に引退し、彼の２人の娘エファ・ワーグナー＝パスキェとカタリーナ・ワーグナー（異母姉妹）が新たに共同支配人に就任したのです。

　開幕前には裏方のストライキの危機という、ワーグナー祭史上初の出来事もありました。バイロイトの裏方の報酬はこれまで極端に少なく（時給４ユーロ）、ver.di（ドイツ最大の労組全国組織であるサービス業労働組合連合）が待遇改善の支援に立ち上がりました。これで『ワーグナー対ヴェルディ』の戦いとなり、連日メディアを騒がせました。初日直前にカタリーナが前向きな姿勢を示し、ストライキは回避され、無事開幕できました。この結果、今年は最高価格225ユーロだったチケットは来年以降また値上されることでしょう。

　また今年からの始まったものには、各公演前に約１時間おこなう『ドラマトゥルクによる上演説明』があり、これは好評でした。さらに『子供のためのワーグナー』もスタートし、今年の≪さまよえるオランダ人≫公演の200席は即日完売になりました。

　今年は８月18日の≪ニュルンベルクのマイスタージンガー≫と19日の≪パルジファル≫を観ました。≪マイスタージンガー≫はカタリーナ・ワーグナーの演出です。ステージ全面を使うのは良いのですが、思いつきで組み立てた場面づくりや余計な動きが多く、目を閉じて音楽に集中するほかありません。男性器の揶揄など必然性に欠け、意味もなく、下品以外のなにものでもありません。昨秋、ブレーメンで彼女の演出した≪リエンツィ≫を観ましたが、この時も同様、くだらないギャグの連発でした。ワルターを歌ったクラウス・フローリアン・フォークトは美声の持ち主、ルックスも良いのに（女性ファンがたくさんいます！）、とても残念でした。

　≪パルジファル≫は08年の新制作です。シュテファン・ヘアハイムの演出は、ワーグナーがバイロイトで住んだヴァーンフリートの館を舞台に、19世紀後半から現代までのドイツ史とワーグナー家の歴史を作品と縦横にからみあわせています。人物描写、心理描写にも優れ、最近低迷ぎみのバイロイトの演出に新しい希望の光を与えました。この演出は批評家にも一般観客にも大喝采で迎えられています。昨年は不評だったダニエレ・ガッティの指揮ですが、今年はテンポ設定も改善されたようです。あの音づくりの難しい特殊なオケ・ピットから出てくるガッティの音楽、とくにフレーズのまとめ方は洗練されています。和声転換の際にうつろうエロスの香りなど、とても魅力的でした。

　来年の第99回ワーグナー祭は７月25日に新制作の≪ローエングリン≫で開幕します。演出は大御所ハンス・ノイエンフェルツ、指揮は30代のナンバーワン、アンドリース・ネルソンス。２人ともバイロイト初登場です。この他８月28日の閉幕まで≪マイスタージンガー≫、≪指環≫、≪パルジファル≫が上演されます。

★ドイツ劇場協会発表『もっとも上演されたオペラ作品』

　ドイツ劇場協会が８月末、07／08シーズンのオペラ作品上演回数の統計を発表しました。今回もモーツァルト≪魔笛≫が不動のトップを守りました（以下、作品名／演出数／上演回数／観客数）。

1. ≪魔笛≫／40／453／232.809　
2. ≪ラ・ボエーム≫／30／280／182.974　
3. ≪ヘンゼルとグレーテル≫／29／252／197.649　
4. ≪魔弾の射手≫／22／178／117.454　
5. ≪ラ・トラヴィアータ≫／20／228／146.230　
6. ≪トスカ≫／20／169／112.774　
7. ≪フィガロの結婚≫／19／208／121.704　
8. ≪カルメン≫／18／171／147.199　
9. ≪セヴィリヤの理髪師≫／18／157／103.926　
10. ≪ドン・ジョヴァンニ≫／18／117／76.922　
11. ≪後宮からの誘拐≫／17／124／93.600　
12. ≪蝶々夫人≫／16／115／93.152　
13. ≪タンホイザー≫／15／77／64.999　
14. ≪ホフマン物語≫／13／155／95.777　
15. ≪オルフェウスとエウリュディーケ≫（グルック）／3／128／39.469　
16. ≪リゴレット≫／13／112／88.887　
17. ≪ばらの騎士≫／12／64／44.784　
18. ≪ランメルモールのルチア≫／11／83／48.136　
19. ≪さまよえるオランダ人≫／11／75／77.094　
20. ≪コジ・ファン・トゥッテ≫／11／65／49.057