来住 千保美 Chiomi Kishi
第298回定期プログラムより
(2010年2月8日)
40. 『話題をよんだ人事と08・09シーズンのオペラ成果』
第298回定期パンフレットより

 昨秋、つまり09/10年シーズンの最初の3カ月間、ドイツのクラシック音楽界では話題になった新人事の発表がありました。また国際的な月刊オペラ専門誌『オーパンヴェルト』がその09年年鑑で08/09シーズンのオペラの成果を発表しました。

★ベルリン・フィル、サイモン・ラトルの契約延長

 ベルリン・フィルが09年10月末、現主席指揮者サイモン・ラトルとの契約を2018年まで延長しました。ラトルは02年秋から現ポストについています。新契約が全うされると、16年間世界最高のオーケストラの芸術監督として活動することになります。

 ラトルとベルリン・フィルの録音ではブラームスの交響曲全集が高い評価を受けています。これにシェーンベルク/ブラームス・プロジェクトが続きます。

 09年11月7日、ラトル指揮ベルリン・フィルの定期コンサートを聴きました。プログラムはシェーンベルク≪映画の一場面への伴奏音楽≫と≪期待≫(ソリスト:エヴェリン・へルリツィウス)、ブラームス≪ピアノ四重奏曲第1番≫(シェーンベルク編曲による管弦楽曲版)でした。才気あふれる指揮と知的な演奏、そしてヘルリツィウスのドラマティックで精緻な歌唱の組み合わせはとても魅力的で、現代の最高峰にある演奏であることは言うまでもありません。

 また、樫本大進が第1コンサートマスターの試用期間に入りました。正式就任は2年にわたるテストに合格した後になります。

★クリスティアン・ティーレマン、ミュンヘンからドレスデンへ

 09年夏、ミュンヘン市が、ミュンヘン・フィルの現芸術監督クリスティアン・ティーレマンに対し、同オーケストラは契約延長をしないと伝えました。これはティーレマンにとって寝耳に水の出来事で、メディアをも巻き込み大騒ぎになりました。ところがシーズンが始まり表面的には緊張の中にも静けさが漂っていたものの、水面下ではティーレマンがドレスデンと接触しているという噂が聞こえていました。結局ティーレマンは09年12月中旬、ドレスデン・シュターツカペレとの契約にサインしました。新契約は12年夏から19年夏までとなっています。

 ミュンヘンにある3つのオーケストラはいずれも世界トップ水準であり、スター指揮者をシェフに据えています(バイエルン放送響はマリス・ヤンソンス、バイエルン州立管はケント・ナガノ)。ティーレマンの後任に注目しましょう。

『オーパンヴェルト』2009年年鑑、批評家の評価

 09年秋、国際的な月刊オペラ専門誌『オーパンヴェルト』がその09年年鑑で08/09シーズンのオペラ成果を発表しました。これは50人の批評家へのアンケート結果をもとにしたものです。評価対象期間は08年7月2日から09年7月5日まででした。

 この結果、<最優秀オペラ劇場>に選ばれたのはバーゼル・オペラ(スイス)で、第2位はアン・デア・ウィーン劇場(オーストリア)、第3位はバイエルン州立オペラでした。<最優秀オペラ・オーケストラ>はフランクフルト・ムゼウム管とバイエルン州立管、<最優秀指揮者>はキリル・ペトレンコ、<最優秀合唱団>はベルリン・ドイツ・オペラ合唱団、<最優秀演出家>はシュテファン・ヘアハイム、そしてヘアハイム演出によるバイロイトの≪パルジファル≫が<最優秀上演>に選ばれました。このバイロイトの≪パルジファル≫は圧倒的な高い評価を受けており、これに関わったハイケ・シェーレが<最優秀ステージ美術デザイナー>に、ゲジーネ・フェルムが<最優秀衣裳デザイナー>に、それぞれ選ばれています。また<最優秀歌手>には女声がアニャ・ハルテロース、男声がヨナス・カウフマン(2人ともミュンヘンの≪ローエングリン≫)、<期待される新進芸術家>にはクリスティアーネ・カルク、<最優秀世界初演作品>にはリーム作曲の≪プロセルピーナ≫(シュヴェツィンゲン・フェスティヴァル)、<最優秀発掘上演作品>にはクレネクの≪聖シュテファンの周りでの最後の舞踏≫と≪カール5世≫、<最優秀書籍>にはシュテファン・メッシュ『Weihe, Werkstatt, Wirklichkeit(神聖、仕事場、現実)』、<最優秀録音・録画>はヤーコプス指揮≪イドメネオ≫でした。<最悪の出来事>はつい4年前までは<最優秀>を独走していたシュトゥットガルト・オペラをめぐる状況でした。支配人以下、歌手までがらりと変わった後の同オペラの凋落ぶりが批判されています。

ヨシ・ヴィーラー、シュトゥットガルト・オペラ新支配人に

 そのシュトゥットガルト・オペラの新支配人に演出家のヨシ・ヴィーラーが選出されました(11年秋から)。シュトゥットガルト・オペラは06年夏に終わったクラウス・ツェーライン支配人の時代にはムジークテアーターのトップを独走、オペラ劇場として高い評価を受けていました。しかし現プールマン支配人の時代になり評価が著しく低下してしまいました。結局プールマンの契約は11年秋以降延長しないと7月に発表され、後任人事は話題を呼んでいました。そして10月に同オペラと関係も深いヴィーラーを新支配人に選出しました。また「レジー・テアーター」に理解のない現音楽総監督マンフレート・ホーネックも同オペラを去ることが決定し、ヴィーラーはいま新音楽総監督を探しています。