来住 千保美 Chiomi Kishi
第300回記念定期プログラムより
(2010年5月23日)
第300回記念定期パンフレットより
42. 『第300回記念定期』

★グスタフ・マーラー生誕150年

 今年2010年はグスタフ・マーラー(生誕150年)、ロベルト・シューマン(生誕200年)、フレデリック・ショパン(生誕200年)のアニヴァーサリー・イヤーです。この3人の作曲家の中でもっとも多く管弦楽曲を作曲したのはマーラーです。マーラーは1860年7月7日に生まれ、1911年5月18日に亡くなりました。つまり来年2011年はマーラー没後100年にあたり、マーラー・イヤーは2年続くことになります。

 マーラーはこの地方の中心都市イーグルアウ(現在はチェコ領イフラヴァ。当時はオーストリア領)からほど遠くない小さな村カリシュト(現在はチェコ領でカリシュチェ。当時はオーストリア領)で生まれました。昨夏このカリシュトとイーグルアウに出かけました。

 カリシュトはチェコの首都プラハの南東約100kmに位置する小さな村です。現在の人口は約330人、地図上で見つけるのも簡単ではありません。村の中心にある教会のすぐ横でマーラーは生まれました。といっても当時の生家はもはやなく、跡地には小ホール付きの記念館が立てられ、ペンションと食堂(というのがふさわしい)が付属しています。周囲には当時を偲ぶものは何もありません。ですが、ここで今年7月7日のマーラー誕生日にトーマス・ハンプソンのリーダー・アーベント、教会でのコンサートなどさまざまな催しがあります。ハイライトはマンフレート・ホーネック指揮マーラー室内管のコンサートで、これはライヴTV中継されます。

 マーラーの幼時に一家はイーグルアウに移り、マーラー自身はこのイーグルアウに、勉強のためウィーンに移る1875年まで住んでいました。マーラーの両親はこのイーグルアウのユダヤ人墓地に眠っています。イーグルアウはチェコの首都プラハの南東約130kmにあります。現在の人口は約5万1千人です。マーラー一家が住んだ家は町の中心の広場のすぐ近くにあり、現在1階はカフェになっています。表通りに小さな看板がかかっているだけで、よく気をつけないと通り過ぎてしまうほどです。カリシュトはもちろんのこと、美しいイーグルアウの町もアクセスの悪さも手伝い、観光客はわずかです。ザルツブルクのモーツァルトの生家やボンのベートーヴェンの生家を訪れる人の数とは比べものになりません。

 マーラーはイーグルアウを出た後、ウィーン、カッセル、プラハ、ライプツィヒ、ブダぺストと居を移し、1891年ハンブルク・オペラの主席指揮者、その6年後ウィーン宮廷歌劇場音楽総監督に就任しました。指揮者として有名だったマーラーが作曲した交響曲の世界初演地は広い地域にわたっています。交響曲の世界初演地は、ブダペストで1番≪巨人≫、ベルリンで2番≪復活≫、クレーフェルトで3番、ミュンヘンで4番と8番≪千人の交響曲≫、そして≪大地の歌≫、ケルンで5番、エッセンで6番、プラハで7番、ウィーンで9番と未完の10番です。

 さて、マーラーは音楽史上重要な作曲家で、マーラーの交響曲は現在、大オーケストラのレパートリーに欠かせないものになっています。マーラー・イヤーは2年続きますが、音楽シーズンは秋に始まり夏前に終わるため、09/10、10/11、11/12シーズンと3シーズン、足掛け4年にわたって多くのオーケストラがマーラー作品を核に据えプログラムを組んでいます。

 まずプログラムについてマーラーの交響曲の中でも『アダージエット楽章』のおかげで一般にもっとも知られている5番の世界初演地ケルンにある2つのオーケストラを見てみましょう。5番を世界初演し、3番の世界初演で中心的役割を果たしたケルン市立のギュルツェニヒ管は今シーズン最後の定期コンサートで3番をとりあげます(ギュルツェニヒ・カペルマイスターのマルクス・シュテンツ指揮)。10/11シーズンでは1番と2番を予定しています。同オーケストラとシュテンツは昨年秋からマーラーの交響曲の全曲録音を始め、12年に完結する予定です。昨秋発売された5番はドイツ批評家賞(09年第4期)を受けました。1990/91年に日本でガリー・ベルティーニ指揮でマーラー・チクルスを行ったWDR響は、09/10シーズンに4番(エイヴィンド・アートランド指揮)、9番(ユッカ=ペッカ・サラステ指揮)、7番(マリン・オルソップ指揮)、5番(アンドリース・ネルソンス指揮)、1番(ヤクプ・フルサ指揮)と5つの交響曲を定期演奏会でとりあげています。ウィーン・フィルは10年、ダニエレ・ガッティ指揮で交響曲5番をウィーン、デュッセルドルフ、ケルンで演奏します。ライプツィヒは11年に『マーラー・フェスティヴァル』を行います。ここではさまざまなオーケストラが客演しマーラー作品を演奏します。ハンブルク・オペラのオーケストラであるハンブルク・フィルは音楽総監督のシモーネ・ヤングが10/11シーズンに1番、2番、3番、7番、≪嘆きの歌≫をとりあげます。いま上げたのは既に始まっているマーラー・イヤーの一部です。マーラー・ファンにとってはまたとない機会が訪れているわけです。