第5章 練習のはじまり
まだ、楽器の弾き方が、よちよち歩きの段階なので、
ボーイングの練習が始まった。チェロの奏法は、1年上の先輩と、卒業生で毎日来てくれるOB・OGの先輩に習った。特に、OBの先輩は、一郎くんとともに、今でも私は頼っている。
ボーイングが始まるまでが、大変だった。
最初は、弦のA線を442ヘルツに合わせ、他の3本の調弦をして、ボーイングができる。
昔は、チューニングメーターはとても高価で買えないので、音叉でAの音を合わせていた。
音叉を聴いて、弦の引っ張りを調節する糸巻き(ペグ)を調節するが、この楽器は、糸巻きの具合が悪く、すぐ滑ってゆるむのである。
OBの先輩が、「チョークを糸巻きに塗ってみると良い」といい、試してみるとなんとかその場は止まった。
しかし、弾き始めたり、床においた時の振動で、すぐ緩む。
場合によっては、糸巻きがチョークの白い粉の煙と一緒にふっ飛んでいくのである。
弦の調弦用のアジャスターが付いていないので、
フラジオレットで調弦を終えるまで、毎日30分以上かかった。
OBの先輩から、「弓は、卵を持つように」と習った。
弓を左手で支えて、右手で持ったときは、理想通り持っていたが、
ボーイングを始めたら、力が入るので、うまくいかない。
練習がやっと始められる頃に、OBの先輩が言った。「沖にいくぞ。」
学校の近くのラーメン店に、練習中良く行った記憶がある。
M高校のOBはみんな、ラーメンがやたらに好きなひとたちだった。