活動の趣旨

 私たち“ル・トリオレ”は、トリオ・ダンシュ(Trio d'anches)の演奏団体です。トリオ・ダンシュとはフランス語で、リード(葦を加工して作る)を発音体とする木管楽器であるオーボエ、クラリネット、ファゴットによる三重奏を意味します。
 この形態をとる演奏団体は、バッソン(フランスにおけるファゴット)奏者フェルナン・ウーヴラドゥーが1927年(昭和2年)にパリでトリオ・ダンシュ・ドゥ・パリ(Trio d'anches de Paris)を結成したのを嚆矢とします。この団体の掲げた趣旨は、音楽史上類例の無かったこの形態の曲、即ち木管三重奏曲を同時代の一級の作曲家に新たに作品を委嘱、初演、普及する事にありました。
 パリでトリオ・ダンシュ・ドゥ・パリの高い理想を掲げての発足の後、多くの優れた曲がこのグループに寄せられました。しかし、これらの曲が演奏に際して高度な技術を要求する事や、曲の真価が充分に世に認められない儘に第二次世界大戦の勃発を見た等の理由から、トリオ・ダンシュ・ドゥ・パリの演奏したレパートリーが必ずしも確固とした形で伝承されているとは言えません。
 そこで、私たちは木管三重奏のための新しいレパートリーを開拓、紹介するという彼等の理想を引き継ぎ、同時にヤーヌスに倣ってバッハ父子、モーツァルト、ベートーヴェン等といった過去のレパートリーにも目を向け世に問うべくル・トリオレを結成、約10年の準備期間を置いた後に演奏活動を開始し現在に至っております。なお、ル・トリオレという私達3人のアンサンブルの名称は、フランス語の音楽用語である三連音符(le triolet)に由来します。
 私たちは、ソリスティックであると同時に精緻なアンサンブルを各楽器に要求するこの編成に限りなき魅力を見出し、その魅力を、聴衆・作曲家・演奏者のトリオで共有、享受、熟成して行きたいと考えます。皆様のご理解、ご協力を頂けますならこれに優る喜びはありません。

主なレパートリー

〈バロック・クラッシック〉
J.S.バッハ: シンフォニア(全15曲)
C.P.E.バッハ: トリオ ロ短調
W.A.モーツァルト: ディヴェルティメント(全5曲)
W.A.モーツァルト:「ねえ、ママお話しがあるの。」の主題による変奏曲
F.ドゥヴィエンヌ: トリオ op.61
L.v.ベートーヴェン:「奥様お手をどうぞ。」の主題による変奏曲
〈近代〉
G.オーリック: トリオ
H.ソーゲ: トリオ
P.M.デュボア: トリオ
H.バロー: トリオ
D.ミヨー: コレットの主題によるトリオ
J.イベール: トリオの為の五つの小品
〈現代〉
H.ヴィラ=ロボス: トリオ
W.ルトスラウスキー: トリオ
M.コンスタン: トリオ
H.トマジ: コルシカ島の主題による嬉遊曲
J.フランセ: ディヴェルティスマン
R.ブートリー: ディヴェルティスマン
篠原 真: 木管三重奏曲
池辺晋一郎: 木管三重奏曲

書評より

レコード芸術93年12月号

 今月は日本の若手奏者による演奏がなかなか快調である。最近の若手が海外でも縦横に活躍し、そこで学びとったものを充分に血肉化し、闊達な音楽を繰り広げているのは喜ばしい限りだ。(中略)木管五重奏は、常設の団体も結構存在し聞く機会も多いが、木管三重奏は比較的珍しく、これはなかなか興味深いアルバムである。(中略)有望なグループが生まれたものだ。今後の活躍を期待して見守りたい。

 

音楽の友94年7月号

 オーボエの辻功、クラリネットの板倉康明、ファゴットの多田逸左久と若手実力派による木管トリオ。往年のフランスの名グループ「トリオ・ダンシュ・ドゥ・パリ」のレパートリーを継承、発展させる意気込みがプログラムに述べられていた。当夜もモーツァルト「ディヴェルティメントK229-3」、イベール「五つの小品」、ヴィラ=ロボス「三重奏曲」と3曲が継承された曲目。(中略)篠原 真「三重奏曲」でも曲のフランス風の軽妙な味わいを上手に演出し、最後のヴィラ=ロボスの楽器の扱いが何とも卓抜な佳曲へと、曲が進むに従って個々の技巧の冴え、アンサンブルの緻密さと当意即妙さのボルテージを上げて、新鮮な感動を与えてくれた。(後略)

〈佐々木節夫〉

 

バンドジャーナル94年8月号

 =オシャレに楽しませるだけじゃない 時には熱く、パワフルに=

(前略)メンバーは辻功、板倉康明、多田逸左久の東京芸大同期生で、アンサンブルの基本である“友情”はゆうまでもなくカタイのだ。そしてもちろん、各楽器にソリスティックな表現が常時要求される編成であるわけだから、3人ともスゴ腕である。コンサート後半にきかせた篠原 真の「木管三重奏曲」とヴィラ=ロボスの「三重奏曲」など、そうした彼らのテクニシャンぶりが十二分に示された快演だった。(中略)ヴィラ=ロボス作品では、きわめて激しいリズムのダンスが自在に表現され、これが木管三重奏かと思うほどの迫力を生んでいた。また、順序が逆になったが、前半できかせたモーツァルトの「ディヴェルティメントK229-3」とイベールの「五つの小品」も実に伸びのびとした演奏でとても楽しめた。

 

音楽の友99年7月号

〈ル・トリオレ〉は、読響の首席オーボエ辻功、現代の音楽の指揮も意欲的にこなすクラリネットの板倉康明、東京シンフォニエッタでも活躍のファゴット多田逸左久から成る。
 fgのフットワークの軽快さが光ったドゥヴィエンヌのトリオ。各楽器の音色の“役回り”が生き生きと主張されたリヴィエの小組曲。基本の音列の多声的な操作、音形ブロックを明快に展開した池辺晋一郎の木管三重奏曲('65)。ユニゾン、和音等楽器間の音の重なりや、微細な動きの木管特有の面白さを醸し出したアンリ・バローのトリオ。単純な構造の中に、特徴的なリズムや和音音形を盛り込んだ、明快で歯切れのいいルトスワフスキの三重奏曲。各分野で活躍するこの3人が、トリオ・ダンシュのレパートリーを掘り起こした好演は、改めて聴衆と創作者を魅了したに違いない。他に音色によるポリフォニーの綾を堪能したC.P.E.バッハ。(5月14日・カザルスホール)

〈小倉多美子〉