毎回練習が終わると酒を飲みに行く。唇と腹筋を酷使した後のビールほど美味いものはない。仲間とつれづれ語り、杯を傾ける。話題も音楽、オーケストラに留まらず、「加護と辻どちらに萌えるか」 から量子ゆらぎやインフレーション理論まで多岐にわたる。このようにしてすごす時間は何者にも代えがたいほど楽しい。
「俺は人類のために精妙な葡萄酒を醸す酒神(バッカス)だ。精神の神々しい酔い心地を人々に与える者はこの俺だ」 というベートーヴェンの言を俟つまでもなく( ロマン・ロラン 『ベートーヴェンの生涯』 )、酒と音楽とは切っても切れない関係にある。
酔えばオヤジは小鉢をたたき、若者のカラオケは盛り上がる。クラシックでもオペラの幕間にワインは欠かせない。もっとも西洋人にとってのワインなど、ウーロン茶のようなものなのだろうが。
酒と音楽は似ている。素晴らしいコンサートの後は呆けてしばらくは拍手も出来なくなるし、オーケストラの練習でも金管バリバリのかっこいいフレーズが決まった時にはどんな美酒よりも脳内がビリビリ来る。酒も音楽も結局は魂の開放なのだ。己の心を解き放ち何かを伝えたい。酒と音楽を媒介にしてあなたとつながっていたい。私が安くもない金を払って酒を飲み、オーケストラを続けるのも、いずれそんな理由なのだろう。十月の演奏会では、私達の音楽で、聴きにきて下さった皆さんと語り合えるだろうか。あたかも酒卓を囲むがごとく。
|