「春はお別れの季節です。みんな旅立って行くんです」
おニャン子のなかじーはこう歌っていたが、それから十五年。毎年春がきて、その白く無音の光に包まれると、どことなくふと立ちどまり、今まで失ってきたもの、去って行った人たちを思い出す。
年年歳歳花相似たり
年年歳歳人同じからず
愛し合った人も、酒を酌み交わした友も、それぞれ成長し、新たな居場所を見つけ去っていく。風が花を散らすように。そして自分だけが昔の、未成熟なまま時間の流れから取り残されていくような気がする。しばし愕然とする。
それでも人は、時と共に変わらずにはいられない。生生流転。私もその歩みはのろいながらも、少しずつ変わっているのだろう。過ぎ去った風景はいつも優しいけれど、甘苦い過去の酒にしばし酔った後は、また一歩、歩き出そう。軽やかに、しかしおずおずと。愛する人があるならば、その手を決して離さずに。孤独を友とするならば、戯れ歌低く口ずさみ。また新しい季節が来る。そこには新たな愛すべき人、語りあう友がきっといるだろう。去りたる人と、再び出会うこともあるかもしれない。
とにかく前に進もう。電車を待つ春の山手線ホームで、そう思った。
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