チェリストにとって飛行機の旅は苦労が多い。楽器は高価で貴重なため、いつも手許に置いておきたい。ところがチェロは子供ぐらいの大きさなので、機内持ち込み許容量を超えてしまうのだ。そこを承知で何とか機内に持ち込みたいと思うのがチェリストの心情である。楽器用の半額の航空券を買えば良いのだが、このチケットは飽くまで正規料金の半額なので、国際線の場合、下手をすると人間様より楽器の方が高くなってしまう。チェロは機内食も食べないのに。
留学時代は、貧乏学生だったので、頑丈なケースに入れて、荷物室に預けるのを覚悟の上で空港に行く。何とか持ち込もうと、チェックインカウンターで駆け引きが始まる。フランクフルトの空港でチェックインした時は、係員の女性が、楽器をお持ちになりますか?と申し出てくれた。流石音楽の本場ドイツと感心したのだが、乗り込んだら、場所がないからとチェロをトイレに入れられてしまった。ノルウェーのオスロから国内線に乗った時は、持ち込みには成功しなかったが、座席に着いてしばらくすると、操縦室のドアが開いて男性が右手の親指を立てて私に合図した。ああ、無事に積み込むことができたんだな、とひとまず安心したのだが、到着して私がタラップを降りると、先ほどの男性が楽器を大切に抱えて笑顔で待っていてくれた。何とその人は機長だったのである。何という心遣いと感謝、その場で一曲弾いて差し上げたい、と思ったくらい。ロンドンで預けた時は、到着地で受け取ったら、ケースの頭を顔に見立てて鼻と口を落書きされていた。もっとも、とてもユーモラスでセンスが良かったので、気に入って今も消さずに残してある。
チェロ用のチケットを持っていても、チェックインに時間がかかったり、いろいろ面倒なことが多い。隣にチェロを置いてシートベルトをかけ、自分も着席して、やっと安心できるのである。
いつかチェロを持たずに手ブラで海外旅行をすること。これが私の夢である。
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