愛媛交響楽団定期演奏会を聴いて(平成8年12月24日「愛媛新聞」から全文)
越智 誠
8日、松山市民会館で開かれた愛媛交響楽団の定期演奏会を聴いてきた。曲目は、伊
福部昭作曲「交響譚詩」、三枝成彰作曲「バイオリン協奏曲」、シベリウス作曲「交響
曲第1番」の3曲。
今回特筆すべきことは、やはり日本の現代作品を2曲も取り上げている点だ。また、
10年前の日本フィル松山公演で、伊福部昭氏のマリンバ協奏曲を指揮した田中良和氏
が今回も指揮にあたっておられるのにも注目していた。
「交響譚詩」は昭和18年に作曲された伊福部氏の初期の管弦楽作品。この曲は最初
とあってか、まだ、少し演奏がこなれていない印象を受けたが、伊福部氏のアジア的な
伝統を感じさせる、その魅力的な音楽の醍醐味(だいごみ)は味わうことができた。伊
福部氏自身は、チェレンプニンに管弦楽法を学んだ後の作品なので「格好は少しよくな
ったけれど、ある種の力が抜けてしまって音楽的な訴えが逆に少なくなってしまった」
と話されていたが、アレグロが苦手といわれていた当時の日本の作曲家の中で、群を抜
いた見事なアレグロの第1楽章は聴いていて小気味よい。
三枝成彰氏の「バイオリン協奏曲」は初めて聴いた曲だ。今回の曲は、甘美なハーモ
ニーの響きの中で心地よい感動を受けることができた。ソリストの深山尚久氏のバイオ
リンとオケが見事に調和した好演となった。この曲のように調性を持った現代音楽は、
最近では吉松隆氏の活躍がめざましいし、今年亡くなられた世界的な現代音楽の作曲家
・武満徹氏も晩年には調性のある曲を書かれている。現代音楽が調性を取り戻しつつあ
るのだろうか。
最後のシベリウスは文句なしに良かった。「交響曲第1番」は、シベリウスのもっと
も充実した時期の作品で、若々しい情熱に満ちあふれた作品だ。オケもバランスの良い
響きで、最後まで緻密(ちみつ)で高い水準の演奏だった。
今後ともできれば日本人作品も組み込んだ、斬新な企画でプログラムを組んでいただ
ければ、と思う。例えば、数年後には松山ゆかりの作曲家、故・清瀬保二の生誕100
年が控えている。それに向けての取組みを一考していただければと−。
(現代日本の音楽同好会代表、松山市住吉2丁目)
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