愛媛新聞コラム「地軸」


 広いホールいっぱいに、バッハの名曲が美しく響き渡った。先日、松山市で催された愛媛交響楽団(愛響)の定期演奏会の一こま。漆原啓子さんのバイオリン独奏だった。

 その日はオール・べートーベンのブログラムだったはずなのに、なぜバッハ?不審に思う向きもあるかもしれないが、実はアンコール曲。無伴奏バイオリンのためのパルティータ第二番から有名な「シャコンヌ」を弾いたのだ。

 べートーベンの「ロマンス」二曲の演奏が素晴らしく、鳴りやまぬ拍手に応えてのことだ。「バッハが好き」な漆原さんらしく、いっそう熱のこもった演奏で聴衆はうっとり。至福の時間を過ごした。

 休憩をはさんでのメーンは交響曲第三番「英雄」。ナポレオンにささげる予定だったのに、皇帝になったと聞いて献辞を記した表紙を破リ捨てた逸話が残る。「あの男も俗人だった」と叫んだというが、タイトルにふさわしく壮大な傑作だ。

 愛響の演奏は力強く、曲想を見事に表現していた。創立から三十六年。市民オーケストラの持続は難しいといわれるなか、発展を続ける楽団には敬意を覚える。とりわけ近年は低音部が充実し、演奏の幅が広がってきた印象が強い。

 もちろんプロの楽団に比べれば粗削りな点もうかがえるが、それを補って余リあるのがアマならではの音楽に対する情熱だ。これからも活躍に期待したい。


 平成20年12月18日発行、愛媛新聞1面の「地軸」を執筆者の了解を得て紹介させていただきました。どうもありがとうございました。

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