≪オーケストラの楽器≫その3 クラリネット 中田勝博
    
 クラリネットはオーケストラや室内楽の中で使われる楽器としてはそれほど長い歴史を持っていない。しかし、今では柔らかでしなやかな音色や広い音域による幅広い表現力により、管楽器の中では一番ポピュラーな楽器で、その演奏人口は一番多いのではないだろうか?また、クラリネットは25cm程のA♭小クラリネットから2m以上もあるB♭コントラバスクラリネットまで、11もの種類があるのが特徴で他には例をみない多さである。

 楽器は1690年頃、ドイツのリコーダー製作者デンナーによって作られたと言われている。その楽器は、音域が1オクターブしかないシングルリードの縦笛を改良したもので、2個のキイを持ち音域が2オクターブ半に広がったものでシャリュモーと言われている。しかし、半音階はクロスフィンガーによるしかなかったため、作曲家の興味を引くほどではなかった。その後次第にキイが付加され、少しずつ音楽家から注目を浴びるようになったのである。中でもシュターミッツを中心に新しい音楽を推進していたマンハイム官廷楽団では初めてオーケストラにクラリネットを2本加えた。その後18世紀末にはヨーロッパの全域のオーケストラで使用されるようになった。楽器の発達期には必ずインスピレーションを湧かす作曲家と、名手と呼ばれる演奏家が出現すると言われるが、クラリネットも例外ではなかった。シュターミッツのクラリネット協奏曲(音楽史上初めてのクラリネット協奏曲)はヨゼフ・べーア、モーツァルトのクラリネット協奏曲はアントン・シュタットラーが演奏することを前提に作曲されたものである。ハイドンの頃はオーケストラの中ではトウッティ(全体の演奏)でしか使用されることがなかったのに比べると、協奏曲の独奏楽器として使用されることは格段の進歩と言える。モーツァルトの作品を初期から順に聴いてみると、クラリネットの使われ方がその点で非常に興味深い。

 現在我が国で使用されているクラリネットの大半がべーム式と呼ばれる楽器である。これはテオバルト・べームに由来している。彼はミュンヘンのフルート製作者で今までのフルートに数々の改良を加え、1832年ベーム式フルートを発表する。この楽器のリング機構が現在のクラリネットに深い影響を与えたのである。このドイツで考案されたリング機構を、フランスではコンセルバトワールの教援H−Eクローゼと楽器製作者ビュッフェ・オージェがクラリネットに取り入れて、ドイツ育ちの楽器とは大きく異なる新式の楽器を生みだした。この新しい楽器に、アドルフ・サックスやアルバート等がリードやマウスピースに改良を加え、今のような楽器になり世界中に広がった。ドイツ式の楽器を前提に作曲したべートーヴェン、モーツァルト、ブラームスに対して、新しいフランス式の楽器の明るく透明感のある音色と運動性に富んだ楽器の性能を生かして、ドビュッシー、サン-サーンス、ストラヴィンスキー、ジャン・フランセ等が作品を発表している。

 冒頭にクラリネットは管楽器の中では一番ポピユラーな楽器と書いたが、実際の演奏となると中々やっかいで機嫌のとりにくい楽器である。直接口にくわえるマウスピースも口の形や歯並び、さらに口の中の形やあごの形により演奏する者に合う物を選ばなくてはならない。また、マウスピースに付ける竹ベラの様なリード(実際は葦製)は、その厚さによって発音から音色にまで影響する。このリードは均質なものがめったにないありさまでリード選びは大変な作業なのである。

 しかし、やっかいで機嫌の取りにくい楽器であっても、一度その音色の魅力に取りつかれると離れがたくなるのがクラリネットという楽器なのである。

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