麻生フィルハーモニー管弦楽団
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ライヴ・レポート〜演奏会を終えて〜Vol.9
第39回定期演奏会 2004年4月11日(日) 多摩市民館ホール
4月11日、シベリウスの権威である栗田博文先生によるオール・シベリウスプログラムの第39回定期演奏会が行われました。さらにソリストとして、今を時めく売れっ子バイオリニストの川田知子先生を迎えるという豪華プログラムでした。
さてさて、今回はどんな様子だったのでしょうか…。

 前日のゲネプロはお世辞にも「よく出来た」と言えるような代物ではなく、その日、お忍びでふらりと現れた小田野先生(シベリウスが大好きだそうです)にも「明日はもっと上手いんだよね〜(笑)」(あくまで小田野先生らしく、優しく、ではありましたが)などと言われてしまうほど…明日はどうなることやら…。

 翌日の天気は快晴。絵の具をこぼしたような澄んだ青空の下、私たちはホールへ向かいました。ステージリハーサルで栗田先生は「弾けてるから」「大丈夫だから」と私たちを励まして盛り上げてくださったのですが、昨日の後遺症でしょうか、ピアニッシモ=ビビリッシモからなかなか抜け出すことが出来ず、勢いのつかないままリハーサルは終了してしまいました。

 お昼を食べてチラシの挟み込みが終わった頃、ふと耳を澄ませば、ホールの一角から美しいアンサンブルが聞こえてくるではありませんか。麻生の誇る凄腕プレイヤーによるロビーコンサートです。オシャレな演出にお客様もうっとり。お金や時間をさいてここまできてくれる麻生の大切な方々にささやかなお礼です。

 いよいよ本番です。舞台に上がると、お客様の入りはなかなかのもので私たちはピリリと緊張し、そしてチューニングのあと先生が拍手とともにいらっしゃいました。練習のときはいつもGパンにシャツで現れるラフなイメージとは違って、燕尾服をきっちりと着て、また私たちはピリリと背筋を伸ばし、指揮棒が振り下ろされるのを待ちました。

 一曲目、「レミンカイネンの帰郷」はドがつくくらい派手な曲なので、これが功を奏したか、演奏しているうちにあのステリハの悪夢は消え去り、なんだか元気になってきました。なかなかの出来映えです。(…だと私は思いました。そうですよね、みなさん!)

 二曲目は川田先生のバイオリンコンチェルトです。私たちは演奏直前川田先生にはお会いしていませんでしたので衣装がどんなものかまったく知りませんでした。みんなであれやこれや想像してニヤニヤ(男女問わず)していましたが、予想をはるかに上回る素敵な姿でいらっしゃって、ドキドキ(男女問わず)してしまいました。黄色に緑の刺繍の入ったとっても豪華なドレスです。その後ろ姿を見ながらの演奏です。
 栗田先生の振る指揮棒から、体から、川田先生の弾きたい音楽がひしひしと伝わってきて、心配していた何箇所かも、ちゃんと切り抜けることができました。力強く、軽く、重く、爽やかで、美しい、バイオリンのいろんな音が川田先生の指先から、ホール全体へこぼれ落ちるようでした。
 終わると、大きな拍手とともにカーテンコールが続きます。そして何度目かのカーテンコールのあと、アンコール曲(バッハの「無伴奏ソナタ第3番」よりラルゴ)を演奏していただけました。アンコール曲は私たちが練習のたびに厚かましいながらも催促していて、川田先生は「いや〜それはどうかな〜。」なんて謙遜していらっしゃいましたが、用意してくれていたようでした。
 「速い」とか「音が高い」とかいうような技巧的な感じの曲ではなく、本当に穏やかな、優しい音がモノを言う曲で、またまた私たちはウットリしてしまいました。

 これはお客様には見えなかったと思いますが、アンコール曲を弾く前にオーケストラ側を振り向いてニコリと笑ってペロっと舌を出したのでした。その意味は私の読むところ、「まいったな」という台詞でしょうか。その仕草のかわいらしいこと!これにまた私たちはメロメロ(男女問わず)になってしまいました。

 さて、川田先生のバイオリンの音色の美しさに刺激され、メインの交響曲第二番です。「ジャン・シベリウスが夢枕に立つ」という栗田先生の振る交響曲です。
 出だしの、北欧の風のような弦楽器の動きにお客様方はハッとされたでしょうか。私は演奏をする度に目の前に青々とした草原が風にざわざわと揺れる春のフィンランドの風景が見えるようで(行ったこと無いけど)気持ちのいい思いをしたものでした。そんな風景を追いながら重々しい二楽章へ、荒々しい三楽章へ続きその三楽章の勢いをバネに四楽章へ飛び込んでいきます。四楽章は本当にかきむしられるような音楽というのか…これはシベリウスの郷愁か、恋かわかりませんがちょっと涙が出そうになるような美しいユニゾンとリズム、ファンファーレで始まります。
 シベリウスに対する熱い思いのこもった栗田先生の指揮と、お客様と、私たちオーケストラとがひとつに溶けあったような気がしました。

 お客様からカーテンコールをいただいて指揮台に栗田先生が戻ってくると客席を振り返り、今日のプログラムについてお客様に説明をしてくださいました。このお客様と「近い」感じに私たちはさらに感激し、栗田先生の人間性にまたもやクラッとしてしまったのでした。その話の中で先生のおっしゃっていたシベリウスの晩年の「アンダンテ・フェスティーボ」のアンコール曲で演奏会は幕を閉じました。

 シベリウス三十代に作曲された曲を演奏し、円熟した晩年の曲をアンコールでまた演奏する、レミンカイネンはフィンランドに伝わる叙事詩の一場面だ、シベリウスはバイオリニストだった、シベリウスの奥方は美しかったらしい…そのような背景を知って演奏をすることの面白さを今回は学んだような気がします。その曲に対する一人一人の思い入れで曲の色や形は変わるんだ、ということを今まで言葉で知っていて、もちろん勉強もしながら演奏会に取り組んできました。しかしその勉強というものは曲に対する研究心だけではならないのだと、「背景」や「人生」を知りながらその作曲家の、指揮者の、ソリストの「思い」を奏でるということが私たちの役目である、ということを学ぶことができました。
 ただ「上手い」だけの演奏ではない演奏が出来るのだとしたら、こういうことではないかな、と思います。
(レポート:島田愛理)
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